翌日の昼過ぎ、わたしは近衛騎士団の副団長の執務室に呼ばれていた。

団長室と違い殺風景と言えるほどこざっぱりした室内には、装飾品は一切置かれず執務机と椅子と照明に棚がいくつか…と、必要最低限の物しか置かれていない。副団長のお父様が華美を嫌うからこうなった。

近衛騎士団の赤い詰め襟の制服に身を包んだお父様は、渋面を隠そうともしないでため息をつかれた。

「ミリィ、アスター殿下との婚約式の日程が決まったようだ。宮内卿と国王陛下の御名で勅使が遣わされた」
「はい」

国王陛下より直々にお話をされているのだから、それほど驚く事はない。覚悟は決めていたのだし、なんの違和感無く受け入れる事ができた。

ただ、お父様はやはり驚かれたようで、わたしの顔をまじまじとご覧になる。

「ミリィ、驚かないのか?」
「はい。事前に国王陛下より意志の確認をなされましたから」
「……婚約式が済めば、おまえは正式なアスター殿下の婚約者となる。内々ではあるが、殿下の立太子の旨も明かされた。アスター殿下が王太子となられれば、おまえは王太子妃となるのだぞ?」

やはり、お父様は不安を抱いてらっしゃる。
それはそうだ。
いくら古き時代より王国を護る盾として仕えてきたとはいえ、エストアール家は男爵に過ぎない。武人として仕えるのに、なまじ高い爵位は要らない。むしろ邪魔だという先祖代々の意思で、候爵への叙爵も辞退したのだから。
ただの男爵家の令嬢が王太子妃になるのは、近年だと前代未聞の出来事。貴賤結婚だ、とのバッシングを確実に受けるだろう。