本当はこんな非公式とはいえ、マリア王女のプライベートかつ親しい方々がいる場所で訊くべきではないだろう。
でも、たとえ王族とはいえ生涯の伴侶を決めるならば、きちんと誠実に相手と向き合ってほしい。
ましてやフランクスはわたしの初めての親友で、レスター王子の婚約者時代から色んな悩み相談をしたり励まし合ったりした仲だ。彼がいなければ、きっと王宮生活は灰色だっただろう。
そんな大切な仲間の将来を、本人の同意なしに一方的に決められることに納得がいかないんだ。
「なんじゃ……それはもう、ルド家の者は諸手を挙げて大喜びだったそうじゃぞ」
マリア王女の言い方に引っかかる。ルド家の者“は”ということは、本人以外の事だよね、絶対。
「それは、フランクスの義両親ですよね?フランクス本人はどう答えましたか?」
「……そなたは、わしの縁談に不満なのか?」
さすがにマリア王女も眉間にしわが寄って、不機嫌さを隠そうともしなくなってきた。
今日のために新しく仕立てたであろう、ブルーのオーガンジードレス。素晴らしい意匠の花の刺繍が施され、品の良い光沢はわたしから見ても美しい。
ただ、そのドレス一着でどれだけのお金が動くのだろう?
フランクスは、贅沢が嫌いだ。
彼の実家は裕福な農家であったけれども、もともと質素倹約を旨とする堅実な価値観を持っている。
その点だけでも、派手好きなマリア王女とは確実に合わない。
性格もだけれど経済感覚が明らかに違いすぎると、後々不幸になるとしか思えない。だいたい、男爵家の中でもルド家は裕福な方ではない。王家からの支援があっても、マリア王女の降嫁に相応しい経済状況かどうか…。



