「ビヒヒン」
「ヒヒン」
アクアは仔馬に近づくと、そのまま体を寄せて御乳をあげている。
いくら気が強い馬でもやっぱり母親となったからか、とても優しい目で仔馬を見ていたから、ずきんと胸が痛む。
「ごめんね、アクア。本当はこの仔と一緒に居たいよね……」
「ブヒン」
気にするな、とアクアが言ってくれたのはわかる。賢いし気遣いができる馬だから、そう答えてくれたのが切ない……本当に、人間の勝手な都合でせっかく産んだ子どもと引き離されているなんて。きっと普通なら耐えられない……と思う。
(そうだよね。ずっとお腹のなかで大切に大切に育てて、命懸けで産んだ子どもなんだから……ずっと一緒にいたいと思うのは当然)
アクアが仔馬を産んだ時は血まみれで、一瞬なにかあったかとギョッとした。頑丈の代名詞のような彼女でさえ、ぐったりしていたのだから。
馬のお産は何度も見てきたからわかるけど、本当に、妊娠と出産は命懸けだと思う。
ソニア妃のように、ポンッと出すからーなんて人は稀だろう……というか、まず居ないと思う。
(子どもを産むのって……奇跡なんだな……あ、でも)
わたしはとある事実に気づいてしまった。
(わたしはアスター王子の婚約者……そのうち王太子妃に……いずれ王妃に……アスター王子が他に妃を持たないなら、つまり……わたしは……彼の子どもを……ってこと、だよね?)
そのことに思い至った瞬間、ボンッと頭に血が集まって一気に顔が熱くなった。



