「よし、と。アクア行こうか」
「ブヒン」

ストレス解消と復帰のためのトレーニングと称して、アクアを馬房から連れ出す。厩舎の皆はアクアの頑丈さと暴れっぷりを知っているから、誰もなにも言わない。
鞍等の馬具をつけてそのまま乗り込めば、懐かしい感覚が蘇る。久々にアクアに乗った旧き森の時は無我夢中だったし、アクアも妊娠中でどんな感じだったかはあまり覚えてなかったから。

城砦に囲まれた広大な敷地では、城から少し離れると豊かな自然がある。以前もアスター王子とともに来た事がある湖。奥まった入り江の丘には、一本の美しい樹が存在する。
普段はなんの変哲もない枯れ木に見えるけれども、それはある存在が現れる時、ガラスのベルが鳴るんだ。

しゃらん、しゃらん、しゃらん……。

澄んだ水のような美しい音が清浄な空気を揺らすと、音もなく湖面に現れたのが真っ白な仔馬。ただ、その額には角が、背中には翼が生えている。黄金色に輝くたてがみと尻尾。瞳は限りなく澄んだ青色。

ブラックドラゴンがユニコーンとペガサスのあいの子だ、と判じたアクアの仔馬だった。

ブラックドラゴンによると、驚いたことにアクアはほんの僅かだけどペガサスの血を引いていたらしい。だから普通の馬じゃなかったし、幻獣同士の血が惹かれあってユニコーンと結ばれたんだなあ…と納得できた。