午前4時。
まだ上司が夢のなかにいる頃、支度を終えたわたしは近衛騎士団の馬を預かる厩舎の馬房にいた。

厩舎の朝は早い。
それに合わせて手伝いに行くから、朝早く起きることは絶対に必要なスキルだ。

「よいしょ、っと!」

馬房の掃除を専用の器具でする。馬のお世話だけでなく、荷物の運搬や作業は結構いいトレーニングになる。馬それぞれの性格や癖を把握する事も大切なことだし、普段からコミュニケーションを取って信頼を勝ち取ることも必要。
非常時にいざ騎乗するとなれば、信頼度や性格の把握をしてるかしてないかでは乗りやすさが大違いだ。

「ありがとよ、ミリュエールさん。いつも助かるよ」
「いえ、いつもアクアがお世話になっていますし…ぼくも、いいトレーニングになってますから」
「でもなあ……普段から人手不足だったが、このところ辞めるやつが増えて困ってたんだよな。だから余計に有り難いよ。普通の騎士や見習いはまず馬房なんてめったに来ないしな…」

馬丁さんに感謝されるほどのことはしてるつもりはないけど、確かに普段から厩舎に足を運ぶ騎士は少ない。わたしが知る限り、2割いるか居ないかくらいだ。中には見習いに任せてまったくノータッチな騎士もいるくらいだ。

「騎士なら、馬の癖や状態を把握するのも大切だと思うんだがねえ……ミリュエールさんは偉いよ」
「いえ、ぼくとしては当然のことをしてるまでですよ」
「だから、なおのこと惜しいねえ。アクアの仔が流産だったなんてな…きっと素晴らしい仔が産まれたろうに」
「……そうですね」

馬丁さんは残念がったけれども……
ごめんなさい、それは嘘です。
アクアは旧き森で、元気な仔馬を産みました。

ただし……ユニコーンとペガサスのあいの子という、とんでもない仔馬を。

だから公にするわけにはいかず、アスター王子の判断で表向きアクアは流産したことにし、仔馬は隔離され別の場所にいる。