アスター王子が言ったことは事実だろう。
彼はそこで嘘をつけるほど、器用なひとじゃない。
だから今アスター王子がわたしだけと宣言したならば、そのとおりに妻はわたし一人。
国王陛下がおっしゃられたように、21になる今の今まで色恋沙汰がなかったということは……
わたしが最初で最後の女性……ということになる。
なぜだろう?
それだけ。たったそれだけなのに……涙が出そうなくらいに嬉しかった。
でも……。
ふわふわした気持ちのなかでも冷静な自分がいて、ここは国王陛下の謁見の間であり、国王陛下をはじめ複数の人の目がある。
それに、今はこんなことをしている場合ではない、と冷静な自分が流されそうな不安定さを諌め現実感を取り戻した。
いついかなる時も、冷静な自分を残す。それが、騎士を目指す鉄則なのだから。
ぶわちーん!と見事な顎を叩く音が響き、アスター王子が仰け反る。わたしはにっこりと笑って顎を押さえる彼にこう告げた。
「アスター王子、誠意を見せてくださり、ありがとうございます。ですが、今はそんなことしている場合ではありませんよね?」
「ミヒヒ……」
体から引き離すためにやや強めに顎を押したけど、ちょっと強かったかな?普通のひとなら顎が外れるかもしれないけど、アスター王子なら大丈夫でしょう。
たぶんわたしの名前呼んだのだろうけど、何言ってるかわかりませんけどね。



