アスター王子がわたしの目の前まで歩み寄ると、わたしをまっすぐに見つめてくる。
いつもと違う雰囲気を纏った彼の眼差しに、どうしてかドキドキと鼓動が速くなった。
「ミリィ」
「はい」
呼ばれる声音と響きは普段と同じなのに、なぜかわたしには違うように聞こえる。
「オレは、おまえ以外の女はいらない」
なんの躊躇いも迷いもなくきっぱりと言い切ったアスター王子は、これまでにない真剣で真摯な顔をしていた。
「今まで誤解されていたのなら、オレの態度が曖昧だったせいだろう。すまなかった……だが、オレには他に恋人も愛する者も居ないし、生涯の伴侶はミリィ……おまえだけでいい」
そう言ってアスター王子はわたしの背中に腕を回し、そっと抱きしめてきたけど。
なんだかふわふわしたあたたかなものにくるまれたような感じがして、頭のなかの処理が、追いつかない。
必死に頭を回転させて理解した結果……アスター王子が言ったことは……
わたし以外妃は娶らないという宣言。
つまり、アスター王子が王太子になるならば、わたしは王太子妃に。彼が国王陛下になるならわたしは王妃になる……ということ。
それよりも、頭が真っ白になりかけたのは。
アスター王子には恋人がいなかった、という事実だった。



