国王陛下の目がこちらへ向くと、緊張で身が引き締まる。陛下より直々にわたしへご下問が発された。
「エストアールよ、そなたは確かに龍よりゼイレームを護ると宣告されたのだな?」
「はい。確かにこの耳できちんと聞き届けました」
「それは、そなたの功績であると聞く。龍を旧き森へ導き、ゼイレームの危機とともに龍をも救ったのだ、と」
国王陛下は膝をつき頭を下げたわたしの前に歩み寄られ、「面を上げよ」とおっしゃられたから、ゆっくりと顔を上げて恐れ多くも間近で国王陛下の顔を拝顔する。レスター王子の婚約者時代を通しても、これほど近くでお顔を拝見したのは初めてだった。
けれども、そんな緊張感は次の陛下の発言で全て吹っ飛んだ。
「まだ、わしの胸中にあるだけではあるが……エストアールよ。そなたを此度の功績で正式な騎士に叙し、龍騎士の称号を授けようと思うのだが」
騎士に、なれる?
しかも、ユリウス以来誰も授けられなかった龍騎士の称号。騎士にとっては何よりも勝る最高の栄誉だ。
頭が真っ白になるくらい嬉しいし、体の中から歓喜が湧き上がる。
でも……。
わたしはゆっくりとまた頭を下げ、陛下にお詫び申し上げる。
「陛下、身に余る評価をいただき光栄に存じます。ですが、わたくしはまだ騎士見習いになって1年という若輩者であります。未熟な点が多く、到底正式な騎士に相応しき者ではありません。陛下の深きお考えに感謝いたしますが、謹んで辞退をさせていただきます」
「……やはり、わしの考えを見抜いたか。さすがエストアールの娘よ」
苦笑いされた陛下には、本当に感謝しかない。
アスター王子の婚約者として龍騎士という称号は、身分に重みを増すことができる。陛下が以前より、わたしの男爵令嬢という身分をご懸念されていたことは知っていた。それを慮っていただけたのだろう。



