今までの話の流れからすると、フィアーナとの国境地帯が危険だということ。
今のところ向こう側からあからさまな挑発行為は無いけれども。
「……この半年、間諜(スパイ)の捕縛が増えていることも無関係ではないでしょうね」
このアスター王子の発言には、少し驚いた。
だって、今まで彼はわたしの前で間諜のかの字も出した事はない。
国家間の秘密を探るべく、間諜が暗躍することはよくある事。わたしのお父様も武芸一筋ではあっても、情報戦に関しては織り込み済みで行動される。
騎士はただ力まかせに武人でいるだけではだめだ、と常日頃からおっしゃっておられた。
いざ戦いになれば、情報が勝敗を左右することはよくある。だからこそ各国は他国を出し抜こうと密偵や間諜を放つ。
ここゼイレームだとて、隣国のフィアーナやノイ王国へ間諜を潜り込ませている。
ブラックドラゴンの襲撃の第一報は目撃情報などではなく、間諜からの情報だった。
ただ、アスター王子がわたしへ間諜のことを知らせてくださらなかった……それが、少しだけムッとくる。
(アスター王子……なぜ、わたしにきちんと間諜の事柄を話してくださらなかったんですか!?旧き森のことといい……後できちんと説明していただきますからね!?)
わたしが笑顔で背後からプレッシャーをかけると、アスター王子の顔が青くなった気がしないでもないですが…問題はないですね、うん。
「なんだ、アスター。すごい汗だが大丈夫か?」
「は、はい。さっき走ったからですよ!ええ、大丈夫です!」
国王陛下から心配されるほどの冷や汗も、ね。



