「アクアが産気づいたんだ」
「えっ!?」
アスター王子の言葉に、一瞬頭が真っ白になった。
アクアはまだ、産み月には遠いはず。
やっぱり、身重の体なのにわたしが無理をさせたから?
彼女とは、幼い頃から、ずっと、ずっと一緒だった。
いろんな経験をともにして育ってきた。兄弟がいないわたしには、本当のきょうだいのような唯一無二のパートナーであり、友だちなんだ。
その彼女が一人で苦しんでいるかと思うと、居ても立っても居られない。
「アクア…!」
思わず穴から飛び出そうとしたわたしを、アスター王子は制止した。
「ミリィ、落ち着け。アクアには馬の知識が豊富な騎士をつけてある。なにかあれば矢をいって報せるように伝えてあるから、焦るな」
「……はい」
アスター王子の言うとおりだ。
騎士であれば、私事で焦ったり冷静さを失うのはもってのほか。冷静さを失えば、判断力が鈍る。私情を挟むのもだめだろう。
でも…でも!
アクアの痛みや苦しみを想像しただけでつらくて、涙が出そうになる。ぎゅっと痛いくらいに拳を握りしめて耐えていると、アスター王子がわたしの顔を覗き込んでこうおっしゃった。
「ミリィ、アクアを想うその気持ちを忘れるな。騎士は冷静さも必要だが、想う気持ちも同じくらい大切なんだ。生命に貴賤はない……アクアを想い泣きそうなおまえは、素晴らしい騎士になれるだろう」



