思い返せば、この1年ほど充実した日々はなかった。
アスター王子の変態ぶりは日常茶飯事だし、騎士をめざす仲間や上司に恵まれて、幸せな1年だった。
これほど騎士をめざすために鍛えられた日々は無駄にしたくはない。
(やっぱり……騎士の道は捨てられない。でも、アスター王子のそばにいる道も捨てたくはない)
自分が男爵家とはいえ、貴族令嬢であることには感謝したい。平民からならばまだ反発は大きかっただろうけれど、今わたしは公式に認められたアスター王子の婚約者。それを利用すると言っては語弊があるけど、彼自身から破棄すると言われない限りは彼のそばにいられる資格はある。
(もしもアスター王子がわたしを王妃にと望むならば……わたしは、応えられる?いえ、自分自身王妃になっても彼のそばにいたい?)
この国の女性の中でもっとも尊く、それゆえに重責もある。妃には権力はほとんどないけれど、王妃ならばありあまる権力を手にすることになるし、政治的行為ができる。
王妃ならば、騎士には出来なかったことが可能になる。
(いえ……それは二の次。王妃となりアスター王子のそばにいるか……いたいのか?)
ふう、と一度深く息を吐く。
恥やプライドなどかなぐり捨て、むき出しの自分自身と向き合ってみた。
ーーそうね、と自分が答える。
“彼とならば、どんな形であれ、死が道を分かつまでそばにいたいわ”
……それが、自分自身の出した素直な気持ちだった。



