(迷うことはない!わたしは自分自身で決めたんだ。どんな困難があろうとも、騎士になるのだと。あとはそれに向かって突き進むだけだ)
胸のあたりでぎゅっと拳を握りしめた時に、いつも感じた硬い感触がない事に気づいた。
(あ……そうだ。メダリオンはマリア王女を護るために預けていたんだった)
もうすっかり馴染んだものがないと、すこしだけ心細さを感じたのが意外だった。あれはただの婚約のポーズのためだけであって、アスター王子にはさほど意味がないものだ……とは理解しているけれども。
なにかあれば、服の下に隠したメダリオンに無意識に触れていたのだと気付かされる。不安定な時や不安な時に、服越しにでも指が触れれば落ち着く気がしていた。
アスター王子がわたしを護る魔術を幾重にもかけてくださっていたから、だろうか?
(ううん……違う……そうじゃない。きっと……アスター王子が下さったものだから、だ)
普通の令嬢ではないわたしにとって、宝石や装飾品や服はさほど価値がない。良し悪しなんてわからないし、よほどおかしくなければ言われたままにただ黙って身につけるだけだ。
たとえ城1つ買える価値の宝石を贈られたとしても、感動はしないだろう。
(もっとも、即辞退はするけれどね)
わたしの基準は、物への思い。
あのメダリオンは、わたしにとってどの宝石よりも価値があるのだ……と。驚くほどストンと自分の中で理解できた。



