その時も、なんだかもやっとした気持ちになった。
アスター王子の部下として従騎士として帯同するのは当たり前だけれど。頬を染めた辺境伯令嬢とにこやかに歓談するアスター王子を見ていたら、どうしてか逃げたいような衝動に駆られた。
職務なのだから、と自分自身を叱咤し平静を保ったけど。忙しさにかまけて放置してきた症状がまたぶり返したということは、やはりわたしは病気ということなのだろうか?
なんとか時間を見つけて診ていただかねば……。
でも、それとは別のざわつく感情はなんだろう?
凪いだ水面にさざ波が起きるような微妙なものだけど。ゆっくりと落ちた水滴が水面に波紋を広げるように、わたしのなかで今までとは違う…知らないものが動き出そうとするのを感じた。
(アスター王子には幸せになっていただかねばならない。彼が国王陛下になられるならば、隣にいるのはわたしではないはずだ。わたしは騎士になる。だから、あくまでお仕えする立場には変わらない……でしょう?)
わたしが、目指してきたもの。ずっとそのために努力し鍛えてきた。まだ15年しか生きていないけど、そのために生きてきた。
“騎士になる”ーー。
これが、エストアール家の長女として望んだ未来であり目標。男爵家の長子として、令嬢として。その名に恥じない騎士となり、家を継ぐ。それは誰に強制されたものではなく、自分自身で決めた夢だ。
だからこれを諦めないし、絶対夢を叶えてみせる。
そうなれば、国王陛下となったアスター王子との道は分かたれるのは必然だし、当然だ。



