でも、何かが違う。
自分のなかで、もうひとりの自分が何かを叫んでる気がする。
すっきりとしない気持ちを抱えたままでは、後々よくない結果になる。
騎士が迷っては、救えるものも救えなくなる。
だから、わたしは心を静めるために自分自身に問いかけてみた。
(なにをそんなに迷っているの?アスター王子が幸せになるのは望んでいるのでしょう?)
そうだ。それは間違いがない。
この1年アスター王子のそばに仕えてきて、彼がどれだけ努力し頑張っているかを見てきた。王族としても、騎士としても。
騎士だから基本は王子の公務は免除されてはいるけれども、騎士だからこそできる方法で代わりを務めてきた。一介の騎士ならば相手にはされないけれども、ゼイレームの第2王子という肩書きが役立つ時は最大限活用する。
もちろん、普段はそんな身分はまったくおくびにも出さないけれど。
必要な時は躊躇いなく、使えるものは使う。
アスター王子は剣技や戦果ばかり有名になっているけれど、実は交渉事が得意なことはあまり知られていない。この間も兄のアルベルト王子の護衛として辺境伯のところへ出向いた際、交渉事が揉めに揉めて難航した時にはアスター王子が懐柔策を提案してすんなり決まった。
辺境伯の領地の規模や地質、人口や産業や文化…それらをすべて理解できていないと、到底無理な提案だった。
どれだけ勉強をしているのか……事前の一夜漬けでは到底無理なほどの知識量。辺境伯は上機嫌でアスター王子を歓待したがったけれど、アスター王子はあくまで護衛だからと辞退していた。辺境伯がやたら娘を話題に出し、実際紹介していたっけ。
アスター王子の将来性を買って美女と評判の掌中の珠である娘を嫁がせたかったんだろう。



