わたしが理解できなくて首を捻ると、ブラックドラゴンは楽しげに言葉を紡ぐ。
『ずいぶんと辛辣であるな。だが、ミリュエールよ。それだけ理解しておるならば大丈夫ではないのか?』
「大丈夫…とは?」
『そなたが進むべき道に迷うておるのは理解しておる。騎士として生きる覚悟は十二分にあるのだろう。だが、婚約者に対してはどうかまだ定まっておらぬのであろう?』
ドキリ、と心臓が跳ねた。
アスター王子とどうするか……なんて。
自分の中ではいずれ婚約は破棄され、アスター王子には相応しい令嬢やお姫様を迎えてほしいという思いがある。国王陛下になられるならば、誰もが認める女性が妃になるべきだ……と。
けれども、なんだろう?
アスター王子の隣に女性が並んで幸せそうにほほえみ合う姿を想像しただけで、胸に霧がかかったような、モヤモヤする気持ちがわずかに湧いてくるのは。
今まで、こんなことは無かったのに。
心臓に異常があるのだろうか?
(後で御典医に診ていただこう……)
「……もちろん、彼が望むならば他の相応しい令嬢を迎えていただきます。婚約破棄される前提での一時の婚約だとは理解してますから」
モヤモヤする気持ちを抑えながら、いつもどおり淡々と言い切った……つもりだった。



