『騎士では出来ることは限られている。だが、王妃ならば別ではないか。歴史上后として、国王以上の采配を振るった女性の例は枚挙に暇がない。中には夫亡き後に一時とはいえ王位や皇位を継いだ例もある』
さすがにブラックドラゴンは長生きした龍の子どもだけあり、人間の歴史にも造詣が深い。たぶん不本意ではあるだろうけれども。
(わたしが王妃に……?そんな大それたことを口走ったなんて)
「いえ……ブラックドラゴン……わたしは男爵令嬢に過ぎませんし、騎士を目指す従騎士に過ぎません」
『だが、有力な王子の婚約者なのではないか?』
否定しようとするわたしの言葉を、ブラックドラゴンは逆に返してきた。
『アスター王子の名は耳にした事がある。庭園で対峙していた者であろう?無駄がない見事な采配であった。私の暴走を止めるために被害を最小限に抑え的確な作戦を取った。人間にはあれしか無かっただろう。あやつならば、私も信頼できる』
ブラックドラゴンがずいぶんと高い評価をアスター王子に与えるけれども…。
「そのような評価をくださり、ありがとうございます。アスター王子も喜ぶでしょう」
『婚約者であるそなたは喜ばないのか?』
「あまり褒めると調子づいて暴走しますからね」
わたしがため息混じりに少々不満を述べると、ブラックドラゴンは愉快そうな笑い声を上げた。なぜ、笑われたのだろう?