ブラックドラゴンは、突然何を言い出すのだろう?
一介の騎士を目指すに過ぎない人間が、人を変えるなんて大それたことを出来るはずもないのに。

「わたしがですか?ブラックドラゴン、あなたはわたしを過大評価していらっしゃる。わたしはただの従騎士に過ぎません。しかもまだ実力不足な見習いに過ぎません」
『だが、そなたには身分があるでのではないか?』
「身分?」
『よもや、自分の言葉を忘れたわけではあるまい?』
「自分の言葉……」

もちろん、自身の発言は全て記憶しているし、言われたことは暗記している。記憶力の無さは騎士にとっても致命的だから、情景なども憶えるようにしている。

『そなたが、術者に向かって放った言葉。それがきっかけでターゲットが変わり、私はここへ導かれたのだ』
「あっ……!」

そういえば、確かに挑発的に言い放った記憶がある。ブラックドラゴンを操る術者に向かって、自分の方がマリア王女より狙う価値があると思わせたくて、とんでもないことを口走った。

“待ちなさい、ブラックドラゴン。わたしはミリュエール・フォン・エストアール。アスター王子の婚約者です。……アスター王子が国王になられるならば、わたしが王妃になる。ならば、狙うなら、わたしにしなさい!”

今思い返すと、よく恥ずかしげもなく言えたものだと自分を叱責したくなるけど。あのときはとにかく必死で手段なんて選んでいられなかった。