まさか、エストアール家の伝記にあったブラックドラゴンの母親がそんな悲惨な最期を遂げていたなんて。しかも、人間の私利私欲で。

人間側の、完全なエゴだ。

その子のブラックドラゴンだとて、呪縛の呪いを受けてあわや母親と同じ運命を辿ったかもしれない。
それを思うと、呪縛が解けて本当によかった。

ブラックドラゴンに限らず、龍が人と距離を置く理由がよくわかった。利用するだけ利用されたり、一方的な理由で殺されたりするならば、誰だって近づこうとは思わなくなるだろう。

「……ごめんなさい、ブラックドラゴン。わたしが謝ってもお母様の命は帰らないし、あなたの怒りも解けないでしょうけど。わたしは……人として謝罪したい。本当に、人間である事が恥ずかしくなる所業だわ」
『ミリュエールよ、そのことはもうよい。過去は変えられぬ……失われた生命も、時も、還らぬ。
だが、そなたが心底人であることを悔いているならば……』

一度言葉を区切ったブラックドラゴンは、なにか含みのある視線を送ってくる。なにを言われるかと緊張が高まったころ、彼から意外なことを言われた。

『……そなたが、人を変えるのだ』