【完結】捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す2〜従騎士になったら王子殿下がめちゃくちゃ甘いんですが?


思わず身体を乗り出してブラックドラゴンに訊いてしまった。

「ユリウス・フォン・エストアール!?わたしの33代前のご先祖様です。ご存知なのですか?」
『ユリウスは我が母の友であったよ。人には龍騎士と呼ばれていたようだが……種を越えた絆で結ばれていたようだな。母も、ユリウスのことはよく昔語りで聞かせて下さった』
「あなたのお母様が……それは、とても素敵なことですね」
『そうであるな……我ら龍は本来、人とは関わらぬ。つい先ほどまで我が身に起きたように、人間は忌まわしき禍(わざわい)しか呼び込まぬ。ましてや、一方的な都合で我らを殺し、挙げ句殺害した者を英雄扱いだ。自らがこの地上の王と思い上がり、全ての存在(もの)が自らのものとして振る舞う……業が深き存在よ』

ブラックドラゴンの話は、耳に痛かった。
確かにこの地上世界では全てが国という単位に分かれ、それぞれ統治されている。領土問題は常に争いや戦争の火種になってきた。
ここ20年こそ国境地帯は比較的安定した時期になってきてはいるものの、隣国との諍いが消えたわけじゃない。現に、ブラックドラゴンはフィアーナと見せかけた悪事に利用されようとしていた。
まだ、戦争になる危険性は孕んでいるんだ。

『私の母も、人間のくだらぬ謀(はかりごと)で殺されたのだ。
本来千年龍として全ての龍より一目置かれる至高の存在であったが……その角が病に効くと信じ込んだ愚かなどこぞの王が、自らの延命の為に魔術師を使い母を暴竜にさせ、討伐させたのだ。
殺した者は英雄扱いされ王女と結婚したらしい…母の首は城の広場に晒された……あれほど勇ましく、慈しみ深き優しき母が…母は一度も人を害さなかった。ユリウスと友のときも、暴竜と化しても。むしろ、人が好きで友好的であり、数え切れぬ人を助けた…なのに……なぜ、そのような仕打ちを受けねばならぬのか』

ブラックドラゴンの言葉には、なにも返せなかった。