龍騎士…ドラゴンナイトという、伝説にも等しい騎士名がある。
獰猛な龍を手懐け、馬の代わりに龍で空を駆けたという。騎士にとっても最高の栄誉だ。
もちろん戦禍の中では目覚ましい活躍をし、国を勝利に導いたーーとはいえ、それはエストアール家の中でも数百年前の話なのだけれど。
ユリウス・フォン・エストアール。
最後の龍騎士と言われるわたしのご先祖様だ。
彼がなくなった後、龍の背中を任された騎士は居ない。エストアール家のみならず、他の武家や騎士でも。誇り高き龍に認められた騎士は存在しなかった。
それなのに…ブラックドラゴンは、わたしを認め騎乗を許す……と。騎士のみならず、騎士を目指す人間ならば狂喜乱舞する出来事だろう。
わたしだって、正直な気持ちで言えば嬉しい。飛ぶドラゴンの背中に乗るのは、どれだけ気持ちいいだろう。風を受けて景色を眺めて……なんて、想像しただけで楽しそうで口元が綻ぶ。
でも、とわたしは唇を引き締めて首をゆっくりと横に振り、まっすぐにブラックドラゴンの瞳を見据えて言い切った。
「ありがとうございます、ブラックドラゴン……この身に余る最高の栄誉です。ですが、わたしはまだ正式な騎士ですらない未熟な者。高潔なあなたの背中に乗るに相応しくはありません。ですから、自らの足で歩いて戻ります。それも修練ですから」



