《ーーミリュエールよ、人の子である限り限界というものがある》
重々しい神獣の声は、わたしの心に突き刺さる。
《だが、それでもそなたは前を向き足掻いてきたのではないか?上空(そら)を見るがよい》
すこしだけ白く滲む視界を言われるままに上に向けると、ブラックドラゴンが旋回しながら穴の様子を窺っていた。おそらくは術者によって警戒されているのだろう。呪縛が強まっている感じだ。
《あれは、罪なき炎龍。人の穢れた欲望に翻弄された悲しき存在(もの)。そなたはあれを救うためにここへ来た。ゆえに、我は望みどおりに一度力を貸そう》
それから間もなく、信じられない出来事が起きた。
巨大な穴全体が今までと比較にならないほど強くまばゆい光に満たされると、それが生き物の形をとってゆく。
数km相当の巨大な鳥のような、トカゲのような、魚のような不思議な外見。美しく輝く七色の光の翼を持つ巨大なそれは、ひと声だけ咆哮した。
その限りなく美しい音はさざ波のように緩やかに周囲に広がっていくと、ブラックドラゴンも包み込まれる。
ブラックドラゴンの身体がビクリ、と一瞬だけ硬直して穴へ墜落し始める。
「危ない!ブラックドラゴン、飛んで!!」
わたしが全身全霊の力で叫ぶと目の前のブラックドラゴンの目がカッと開き、そのまま背中の翼を羽ばたかせて巨体を浮かせる。
そして、わたしの前へ来てこう告げてきた。
『ミリュエールよ、礼を言おう。ようやく私は私を取り戻すことができた』



