だからブラックドラゴンが我を失い、ゼイレームに被害を与えて討伐されてしまえば、良からぬ企みをする人間の思惑通りになってしまう。首にある呪具を見れば、大なり小なりフィアーナとの関係によくない影響を及ぼすだろう。
まだゼイレームの次代王たる王太子が決まっていない今、自らの利に適う王子王女を王太子に立てられれば、その分暗躍がやりやすくなる。
(お願い、ブラックドラゴン!どうか囚われないで……こちらへ飛び込んできて!)
祈るような気持ちでブラックドラゴンの飛翔を見守った。
(誇り高き炎龍!人の穢れた欲望に囚われてほしくはない!あなたは至高の存在のはずだ!!)
呪具を破壊しようと模造剣を持ちながら、わたしが心のなかで必死にそう願っていると……。
《ーーミリュエールよ》
誰かの声が、響いてきた。
いえ、それは頭……心のなかに直接流れ込んでくる。ユニコーンと同じだったけど。
その“声”は、ユニコーンとは比較にならないほどの重々しさと厳粛さがあって。ひと声だけで身が震え、身体が引き締まる思いをした。
(……誰ですか?)
《我に名は無い。ただ、永き時をこの地に棲む存在(もの)》
(……永き時をこの地に……あ、まさか!)
「神獣ネスピ……!?」
思わずその名を口にすると、“声”は否定も肯定もしなかった。
《ーーそう呼ぶ者もあるが、我は我であり意味はない》



