(力がみなぎってくる…これが、聖なる光?)
呼吸も整い、うるさかった心臓も落ち着いている。
しかも、背中の火傷の痛みまで和らいだ。
ここを訪れたのはまだほんの子どもの頃だったから、そうハッキリと憶えていたわけじゃない。
でも、森から帰った後にお父様に禁忌の地だから、ととても叱られた。
“人の欲望で穢(けが)していい地ではない”……と。
深き穴は、ゼイレームの創世神話に登場する聖獣ネスピが棲まう地と言われている。海と地を生み出した地母神ミレラルの乗る神獣。
ルスド教の聖典にも記されている。
数千年前の創世神話なんて、正直おとぎ話と考えていたけれど…。
こんな不可思議な体験を実際にしてしまえば、本当なのかもと思ってしまう。
「神獣ネスピ……どうか、ブラックドラゴンをお救いください!彼にはなんの罪も無いのです!!このままでは…彼は命を落としてしまう!」
あまり神に祈ることは好まないけれども……
魔術や呪いなど、魔力も知識も無いわたしの手にあまり過ぎる。
それに、ブラックドラゴンは彼自身の意思でゼイレームを襲ったわけじゃない。誰かの悪意で軍隊の代わりに利用されただけだ。フィアーナ王国の呪具が使われていたけれども、わたしの中ではそれすら怪しいと睨んでいる。
誰かが、“フィアーナの仕業に見せるため”わざと目立つ場所に呪具を装着したと考えられるからだ。
普通、呪具は目立たない場所に着ける。破壊されたり奪われないために。時には体に埋め込んだりもする。
それが、ドラゴンの首なんて一番目立つわかりやすい場所に着けたのは、絶対良からぬ企みからだろう。
この程度ならば、わたしですらわかる。



