旧き森は古生代からの自然が残っている数少ない貴重な森林だ。
その周囲とは明らかに植物相(しょくぶつそう)が違う。
わたしも入り込んで何度か遊んだけれど、そのたびに不可思議な体験をしてきた。
深い場所に入り込んだと思ったら、いつの間にか森の外にいたり、光る蝶や見たことがない動物がいたり。あとは底が見えないほど深い穴があって、そこから虹色の光が揺らめいていたり。
神様がいるからと禁域になっているから正式な調査はされた事がないけれど、魔力がないわたしでも静謐で荘厳な空気に身が引き締まる思いがする。
だから、もしかしたらブラックドラゴンの呪縛にもよい影響があるかもしれない。そんな淡い期待もあって、こちらに誘導してみた。
(なんとかブラックドラゴンの呪縛が緩んでくれたら……そうしたら、呪具を物理的に破壊して解放してあげられる!お願い……ブラックドラゴンの呪いを解いて!)
なるべく深い場所まで、ブラックドラゴンを誘導しなければ。できたらあの深い穴まで。
あの大きな穴が、たぶん信仰の中心部。そんな直感もあって、全速力で穴を目指す。
とはいえ、手入れされた御料地とは違い、手つかずの自然が残るぶん、様々な障害があってまっすぐには走れないしスタミナも使う。
もう、王宮から20kmは離れただろうか。さすがに毎朝10km走っているわたしも、次第に疲れが溜まってきて足が鈍くなってきた自覚があった。



