(かなり離れた……)

マリア王女が逃げ込んだ洞穴から距離を取れた事を確認したわたしは、作戦を変える事にした。

この辺りの地形は熟知している。騎士見習いやレスター王子の婚約者時代だけでなく、幼少の頃からお父様について訓練の見学に来ては忍び込んで、騎士の子ども達と遊び回っていたから。

ブラックドラゴンの呪縛を開放するには、まずは呪具を破壊しなければ。けれど剣が届く距離ではないし、
常備している単弓は飛距離せいぜい10m程度。なんにせよ、命中するには近づかないと難しい。

(あの木なら…)

わたしが目論むのは、この辺りで一番の古い大木たち。樹齢数百年はあるだろう、古来よりある旧(ふる)き森だ。そこは昔からの手つかずの自然で、ルスド教の信仰の対象にもなっている。

高さがゆうに20mから30mはある巨木林。そこならば、ドラゴンの身体に近づける。

「よし…!!」

わたしの意図どおりに行くかわからないけれども……一か八か!

本気で反撃をするふりをしつつ、ドラゴンを旧き森へ誘導してゆく。
濃い緑の緑陰が近づいてきてから一気にそこへ逃げ込むふりをしたら、案の定ブラックドラゴンは翼を羽ばたかせ追いかけてきた。