(あと少し…森から出た瞬間が勝負!)
森と絶壁の洞穴の間には、どうしても遮蔽物がない場所がある。ほんの数m程度だけれども、そこをドラゴンが見逃すはずがない。
手綱を握る手に力が籠もり、緊張から汗も出てくる。
けれど、今マリア王女をお守りできるのは、従騎士のわたしだけだ。
(来るなら来なさい…!絶対、マリア王女を守り通して見せるから!!)
木々の梢が途切れ、洞穴まであとほんの少しの距離だった。瘴気を纏うブラックドラゴンの姿が絶壁にあって、ぴたりとこちらへ目を向けた瞬間、自分の中にある危機感が最大になった。
「ヴアアアオオオ!!」
翼を広げたブラックドラゴンは、そのまま滑空してくる。このままだと、絶対にぶつかってしまう!!
咄嗟の判断でわたしはアクアを左へ方向転換させ、そのままアクアから飛び降りた。
「ミリュエール!」
「アクアに乗って洞穴へ逃げてください!お願い、アクア!」
「ヴヒイイン!」
マリア王女の悲鳴に近い叫び声に答えつつ、アクアに頼むと彼女はそれに応えて、そのまま違う洞穴を目指した。わたしが次に避難候補に考えていた洞穴へ。
ドラゴンがそちらへ首を巡らせ、追いかけようとしたけれども…。
わたしはそちらへ素早く回り込み、ブラックドラゴンへ叫んだ。
「待ちなさい、ブラックドラゴン。わたしはミリュエール・フォン・エストアール。アスター王子の婚約者です。……アスター王子が国王になられるならば、わたしが王妃になる。ならば、狙うなら、わたしにしなさい!」
不本意ではあるけれども、アスター王子の婚約者という立場を強調し、自分を狙うよう仕向けた。
正確にはドラゴンに、ではなくブラックドラゴンを操る術者に。わたしの方が価値があると思わせれば…。



