「ミリィ!」
「ぼくなら、大丈夫です!それよりも…ドラゴンが!!」
アスター王子がわたしに心配げな目を向けたから、心配はいらないと首を振ってからブラックドラゴンを指し示した。
ブラックドラゴンは奥宮殿の方を見遣ると、翼を数度はためかせてゆっくりと高度を上げる。そして、方向転換してそちらを目指し始めた。
「アクア、妊娠中にごめんね。ドラゴンを追いかけて!」
ブラックドラゴンの狙いがわかったわたしは、すぐさまアクアの背中に飛び乗った。
アスター王子が驚愕に目を見開く。
「まさか…ドラゴンの狙いは」
「その、まさかです。ブラックドラゴンの狙いは、おそらくマリア殿下でしょう…追いかけます!はあっ!」
「ヒヒヒヒーン!」
鞍も手綱もない状態だけど、アクアは心得たように猛然と走り出した。
普通なら妊娠中の馬に人を乗せて走らせるなどあり得ない。人間と同じで大切な命を宿しているのだから。
わたしも、他の馬なら絶対やらないしむしろ止める。
でも、頑丈さは折り紙付きのアクアだし、腹の仔はユニコーンの仔。何もかもが常識はずれだし、様子がおかしかったらすぐに止めるつもりだ。
まあ、アクアはとんでもなく賢いから、自分が無理と思えば絶対やめるしてこでも動かなくなるけどね。
宮殿の廊下を馬で爆走なんて咎められるだろうけど、お叱りは後でいくらでも受けるから、今はなりふりなんて構っていられない!
やがて見えきた皆のそばでアクアを止めて、下馬しないままマリア王女へ諫言した。
「馬上から失礼します。マリア殿下、ドラゴンが追いかけてきます!早くアクアにお乗りください!!」



