「は?」

わたしは相手の言葉がよく解らなくて、思わず聞き返していた。

「もう一度おっしゃって差し上げますわ。ミリュエール・フォン・エストアール男爵令嬢。あなた、ご自分がアスター殿下に相応しいのだとうぬぼれてらっしゃるのかしら?」

頬を引きつらせながら再びそう発言したのは、豪奢な赤いドレスに身を包んだどこぞの高貴なご令嬢。年はたぶんわたしより上くらい。赤みがかったブロンドをゆったり結い上げ、薔薇をモチーフにした髪飾りがキラキラ揺れてる。美人だけど勝ち気そうなきつい顔立ち。紫色の瞳はわたしが親の敵とでも言いたげに、睨みつけてきてる。

王宮という公的な場に身を置ける事と言い、侍女が何人も着いている事と言い、少なくとも伯爵家以上の令嬢だろう。以前別の王子の婚約者だった2年間で培った知識を総動員してみると、すぐ思い出した。

ローズ・フォン・バーベイン候爵令嬢。

わたしより3つ年上の18歳。たしか、かつて第1王子のアルベルト殿下の婚約者候補だったご令嬢だ。
けれども、ローズ嬢ご本人が平民の血を引くアルベルト殿下を嫌がり、結局縁談が成らずにいたんだよね。

それ以降縁談が来てもことごとく断っていて、まだ婚約者は決まってなかったはず。

そのご令嬢がなぜ、王宮のホールで騎士見習いのわたしにいちゃもんを付けてくるのだろう?

確かにわたしは騎士であり第3王子でもあるアスター殿下の騎士見習いで、そして婚約者でもあるのだけど。