オセメスさん案内の元、私達はそれぞれの部屋に案内される。
 イリオーデのみ昔使っていたという部屋に案内されそうになったのだが、「そんなに部屋が離れていては王女殿下の護衛が出来ないだろう。まぁ、離れていても一晩中王女殿下のお部屋の前に待機すればいいだけの話だが」とイリオーデがオセメスさんに詰め寄った。

 するとそれを聞いて、「一晩中?! いくら何でもそれは体を壊しますぞ?!」とオセメスさんがイリオーデを制止しようとするも、頑として意志を曲げないイリオーデに負けて、イリオーデまで客用の部屋に泊まる事になったらしい。
 ちなみに私が泊まる部屋の隣の部屋である。アルベルトはもう反対側の部屋に泊まるらしい。なので三人横並びで部屋を借りた事になった。

「主君、こちら主君の荷物です」
「持っててくれてありがとう、ルティ」

 アルベルトから、部屋に入る直前に一つのトランクケースを渡された。これがこの旅での唯一の私の荷物であり──カイルから貰った、某ナントカポケットのような大容量の魔導具だ。
 往復二ヶ月の旅程だとカイルに伝えた時、荷物が増えたら大変だろうから……って言ってこのトランクケースを渡された。

 なんでも、カイル曰く、
『その亜空間トランクはな、無制限って訳ではなくてあくまでも内容量を大幅に増やすってだけの魔導具なんだ。亜空間そのものにアクセスするんじゃなくて、亜空間の一部をリソースとして使用、加工する事によりトランク内を外見以上の内容量にするって感じだな。それによって大幅な魔力消費量削減(コストカット)を実現し、更には──……』
 との事なので……仕事の傍らで聞いていたのでほとんど話を聞いていなかったものの、とりあえずこのトランクは物がいっぱい入るらしいのだ。

 なので私の荷物はこれだけだ。ちなみにアルベルトとイリオーデは驚く程に荷物が少なかった。まぁ、荷物は全てアルベルトに持って貰ってるからほとんど関係ないんだけど。
 何せアルベルトは影の亜空間を我がものとしている。荷物は全てアルベルトに渡して影の中で管理してもらって、有事に備えて身軽になっておく事が一番だと話し合ったのだ。

 カイルから貰った亜空間トランクでやたらと多い私の荷物を一纏めにし、更にそれをアルベルトの闇の魔力で影の亜空間に格納し持ち運んで貰う。
 世界中から羨ましがられる事間違い無しの素晴らしいコンボだ。

「はい、騎士君。君の荷物」
「イリオーデだ。持ってくれた事は感謝する」

 アルベルトがイリオーデの荷物を手渡し、私達は一度それぞれに与えられた部屋に入る。
 部屋は客間とは思えない程、中々に広く豪華であった。いや寧ろ客間だからこんなにも豪華なのかしら?
 亜空間トランクを寝台《ベッド》の上に置いて、とりあえず壁や床をコンコンと叩いてみる。音の響き的にかなり硬い素材のようね。これなら襲撃とかもあまり警戒しなくていいか……次は窓ね。

 窓は、うーん……瞬間的衝撃には弱そう。瞬間的な強力な衝撃には耐えられなさそうだし、寝る時は結界も張っておこうかしら。
 何せ皆から散々、耳が痛いぐらい色々と気をつけるようにと言われたのだ。下手に怪我を負ったり襲撃を受けたりした日には、ナトラ辺りが飛んできかねない。

「王女殿下、この後はどうなされますか? お着替えなどあれば、お手伝い致します」
「ご入浴をご希望でしたらすぐに準備してきます!」
「当屋敷の案内が必要であれば、イリオーデ坊ちゃんを呼んで参ります」
「夕食はいつ頃になされますか? 王女殿下のご希望に沿うように仰せつかっておりますので、ご希望の時間をお教えくださいませ」
「何でも、我々にお申し付けくださいませ!」

 侍女達がニコニコ顔で次々に話す。

「ええと……そうね、着替えはいいわ。入浴は夕食後にするし、夕食は二十時頃を目安に用意してくださると助かるわ。それまではうちの者達と共に屋敷を見て回らせて貰おうかしら」

 それに一つずつ答えると、侍女達は「かしこまりました」と恭しく背を曲げて、静かに退出した。
 それと入れ違いになるようにイリオーデとアルベルトが部屋にやって来たので、この後の流れを簡単に説明し、私達はイリオーデの案内で屋敷の中を見て回った。

 イリオーデは「如何せん、最後にここを訪れたのはもう十年以上前の事ですので……記憶に抜けがあったら申し訳ございません」と謝っていたが、その割にイリオーデはきっちり案内人を務め上げ、逐一解説などしてくれていた。
 そのお陰で、私はランディグランジュのお屋敷でのお泊まりを楽しむ事が出来た。