「こちらが、アミレス様のデザイン画に従い作成しました執事服になります」

 暴かれた布の下から現れるは、黒の生地が美しく生真面目な印象を抱かせる燕尾服。
 少しでもアルベルトが認識しやすいようにと、ベストの色は赤みがかっている。シャツは白でネクタイは黒。私の個人的なこだわりで懐中時計も付属している。胸ポケットからは後ではめてもらう予定の白手袋が。
 うむ、完璧な執事服だ。

「もう……っ、完璧よ! これぞ私の求めていた執事オブ執事服…………!!」

 オタクの夢が体現されたかのような喜び。それに体側で作られたガッツポーズが僅かに震えた。そんな私の取り繕わない態度を見て、メイシアと使用人はホッと胸を撫で下ろしていた。

「満足いただけて何よりです。あぁそれと、実はもう一つお見せしたい物があって」

 もう一つ? と首を傾げる。
 メイシアは使用人から大きめの袋を受け取り、そこから一個のぬいぐるみを取り出して……、

「以前より我が商会で作らせていただいてましたアミレス様のぬいぐるみが、最近ようやく完成しました!」

 どんっ、とそれを見せびらかして来た。
 誕生日に貰ったメイシアぬいぐるみと同じぐらいの大きさの、私のぬいぐるみ。しっかりとデフォルメに落とし込まれていて、一目見て私だと分かるようなクオリティだった。

「わぁ、随分と可愛くなったわね。私……」

 悲運の王女であり、氷の血筋(フォーロイト)たるアミレスが。こんなヒロインのような可愛さでグッズとなる日が来ようとは。
 そんな感慨深さから感嘆の息を漏らす。

「アミレス様は元々世界一美しく可愛い人なので、それをどうぬいぐるみで表現するかとても苦労しました。商会お抱えのデザイナーや建築家など様々な分野の専門家達の協力のもと、このアミレス様ぬいぐるみは完成しました。まさに我が商会の総力をあげて作り上げた逸品です」

 メイシアはにこりと、妖精に連れ去られてしまいそうな可愛い笑みを浮かべた。
 前から思ってたけど……メイシアは私の個人的なお願いとかにもシャンパー商会の総力をあげがちよね。いくら私が皇族だからってそこまで気合い入れなくてもいいのに。

「実はそのぬいぐるみ……現時点で二つしか出来ておらず、一つはアミレス様が、もう一つはわたしが持っておこうと。そう思いお持ちしたんです」
「あらそうなの。じゃあお揃いって事ね」
「はいっ、是非わたしのぬいぐるみと並べて愛でてください!」

 うふふ、あはは。と優雅で和やかな時間を過ごす。メイシアと二人でお茶するのなんていつぶりかしら。と私のぬいぐるみを抱き抱えながら思う。
 一時期は侍女見習いとして東宮に来てくれていたメイシアだが、最近はシャンパー商会の方が中々に忙しいようで、優秀なメイシアは若くしてシャンパージュ伯爵の手伝いをしているらしい。
 なので近頃はめっきり会う機会も減って、私としても少し、心寂しくもあったのだ。
 やっぱりいいわね、こういう落ち着いた時間も。メイシアみたいな可愛い子と一緒だと本当に癒されるな〜!

「ただ今戻りました、主君」
「うわぁっ?! びっくりしたぁ……急に出てこないで…………?!」
「ひゃっ?! ふ、不審者……!」

 にゅっ、と柱の影から溶け出すように出て来たアルベルトに、私とメイシアは肩を跳ねさせた。近くに控えているメイシアの使用人も、あんぐりとしたまま固まっている。
 アルベルトの事を何も知らないメイシアなんかは、不安そうな顔しながらも何故か私を守るように前に立つ。
 私達の反応が少しショックだったのか、アルベルトは「驚かせてしまい、申し訳ございません……」と捨てられた子犬のような表情になってしまった。

「メイシア、大丈夫よ。彼は不審者じゃなくて私の部下だから」
「そ、そうなんですか……?」

 メイシアは気を緩めたのか、フラフラと私の隣に座った。
 ふぅ、とため息をつくメイシアを隣に、今度はアルベルトの方を見た。

「ごめんね、ルティ。のんびりお茶していたから、ちょっと驚いちゃったの」
「いえ、こればかりは柱から出た俺に非があります。せめて扉から出ておけば……っ」

 そこは普通に扉から入って来て欲しかったな。