「……アニキはどう思うの、スミレちゃんの事」

 地下から出て、俺達は今、仲間の元に向かっていた。その時の事だった……エリニティが突然そんな言葉を零した。
 俺はあの桃色の少女を脳裏に浮かべた。
 ……突然人の背中に飛び蹴りを食らわせてきたガキ。いざ攻撃を受けるその時まで気配も無く、姿も見えず、完全にこちらの虚をついてきた。
 その片手には女子供には不似合いな長剣《ロングソード》が握られていて、そのガキは俺を蹴飛ばした後、俺を見下ろして言い放った。

『──子供好きのお兄さん。ここにいる子供達全員を助ける為に、私と取引しませんか?』

 子供らしくない不敵な笑みを浮かべて、ガキは提案してきた。……つぅか別に子供好きじゃねぇし。
 普通俺みたいな無骨な奴を子供好きだとは思わねぇだろ。
 その後このガキは本当に取引を持ちかけてきた。大人の俺達相手に、ガキがどう出るのかととりあえず様子を見ていたら……あの通りだ。
 ここに捕まってる子供達を逃がす為に、俺達の力を貸せと。
 どうやらあのガキにはここのガキ共を逃がす算段があるらしい。あいつの言葉は自信に満ち溢れていて、成功すると確信している。
 ……だから俺は真剣に話を聞いていた。いつもならガキの戯言だって笑って聞き流しただろうが、今日はそうしなかった。
 どうしてだかあいつの言葉は信じようと思えた…何でかは俺にも分からん。ただ、何となく、そう思ったのだ。

「……何もかもが意味不明だな。ガキ共を助ける為に自分から奴隷商に捕まって、檻を開けて抜け出してやる事が用心棒の俺達との取引って…………はぁ、何であんなガキの言葉を信じちまったんだ俺は」
「可愛い女の子だったからじゃない? やっぱりアニキも男なんだ〜」
「うるせぇぞエリニティ」
「いったぁ!?」

 エリニティの頭に拳骨を落とす。小さく悲鳴を上げながら頭を押さえるエリニティを置いて、先を行く。
 エリニティはいつも女、女って……歳下のガキまでも対象に入るのかよ。運命の恋がどうのと騒ぐ割に本当に節操がない。

「ぅ……待ってくれよアニキぃ〜!」

 情けない声を発しながらエリニティが追いかけてくる。
 仲間達が待機している場所に向かう途中で奴隷商への報告を終えたバドールと合流し、俺達は仲間達の元へと戻った。
 この建物にある俺達に貸し与えられた一室。用心棒として夜間の巡回と警備を任せられている俺達は、夜が明けるまでその部屋に待機し、交代ごうたいで建物の警備を行う。
 俺とエリニティとバドールが巡回担当。警備は他の仲間達が二人一組で代わる代わる担当している。
 この時間はクラリスとイリオーデか……今部屋に戻ってもあの二人には作戦を共有出来ないのか……ガキ共の護衛を頼まれたのに、よりにもよって戦闘能力が高い二人が不在とは。
 どうやって情報共有したものか。