「やぁやぁ諸君!!!! 元気にしてるかな!! 皆の人気者、大スターたるこの僕が手伝いに来てやっ──……」
「はい失礼します。本当にアナタはいつも五月蝿いですね、羽虫の分際で騒がないでくださいよ」
「んなっ! 羽虫ではないと何度言えば分かるんだ?! それと僕の華麗な登場を邪魔しないでくれジュリー!!」
「だから五月蝿いって言ってるんでしょうが、さっさとその脳みそ働かせて理解してくださいよ。虫擬きにだってそれぐらい出来るでしょう」

 ウィニグ達が仕事に励む部屋の扉を開け放ち、大胆な登場をしたかと思えば、その男は共に部屋に入って来た悪態をつく少女と言い合いを始めた。
 触角のようなものを頭に持つ男は、蟲の最上位精霊セクタン。そして悪態をつく小柄な少女は宝の最上位精霊ジュリー。この二体もまた、精霊王の理不尽の被害者である。

「あー、ジュリちんじゃーん。ウチの手伝いに来てくれたん? ヤバーいっ、マジちょー好き(ラブ)なんだけど!」
「はっ、はい! アタシ、ハーツさまのお手伝いに来たんです!!」
(憧れのハーツさまと一緒にお仕事がしたくて、怖くても頑張って王さまに直談判しました! ああっ、ハーツさまはやっぱり可愛い……! 精霊界の宝……!!)

 先程までの悪態が嘘のように、ジュリーの顔が蕩ける。この通り、ジュリーはハーツに憧れている。ジュリーはハーツより五百年後に生まれた精霊なのだが、昔から、ハーツの自由奔放で全力で可愛いを突き詰める姿に憧憬を抱いていた。
 憧れのハーツに少しでも近づきたくて最上位精霊の座にまで登り詰めたぐらい、ジュリーはハーツを敬愛していた。

「ジュリちんはマジで可愛いね〜。ウチの好き(ラブ)コレクションに加えたいくらいっしょ!」
「そっ、そんな……ハーツさまのコレクションなんて畏れ多い……!!」

 サボる理由が出来たからか、はたまた本当にただジュリーを可愛いと思ったのか。ハーツは勢いよく立ち上がり、満面の笑みでジュリーを抱き締めた。ジュリーはそれを当然のように受け入れ、享受していた。
 その光景を眺めていた蚊帳の外の男達は、

「本当に仲がいいネ、彼女達ハ」
「な。ジュリーがあんな顔すんのはハーツか陛下相手の時だけらしいぜ?」
「てか発作は収まったんやな、ウィニグ。さっきまで飛びたい言うて喚き散らしとったのに」
「! それもそうだ……! 言われてみれば物凄く飛び回りたい気分に!」
「やっぱ病気やん……ちゃんと発作なんやな…………」
「シッカーが聞いたらゴミを見るような目で『ソイツの特殊性癖を病扱いするなよクソ共がしばき倒すぞ』って言ってきそうだな!!!!」
「セクタン、うるせーヨ」
「え? 僕がかっこいいって?!」
「そんな事一度たりとも言ってないかラ」
「ああもうなんかこっちのアホは耳聞こえとらんし〜! なんでこんな頭おかしいのしかおらんの亜種属性は〜〜!!」

 こちらもこちらで仲良く話していた。基本的に、最上位精霊同士は仲がいいのである。
 ちなみにこの部屋にいる者達の大半が亜種属性の最上位精霊であり、亜種属性の最上位精霊ではない存在はハノルメしかいない。つまりは四面楚歌である。
 そんな状況で亜種属性と一括りに悪く言ったからか──、

「喧嘩売ったな? ハノルメお前今喧嘩売ったよね?」
「はっはっハッ、よろしイ。ならば戦争ダ」
「いくらハノルメと言えども僕達全員相手では一筋縄ではいかないだろう!!!!」
「ルメちーん、そこの変態とウチら一緒にしないで欲しいんだけどぉー?」
「ハーツさまを馬鹿にしましたね、絶対に許さない……!」

 ハノルメは他の最上位精霊達に囲まれ壁際まで追い込まれた。しかしその表情は一切変わらず、ヘラヘラと余裕を醸し出す。それどころかどこか勝ちを確信めいた様子さえあった。
 いくらハノルメがこの中で最も精霊位階が高いとは言え、どう考えても複数体相手では分が悪いと思うのだが……。

「──やる前から、俺の勝ちは決まっとるんやで」

 ハノルメが鋭い笑みを浮かべてボソリと呟くと。

「……お前等何やってんの?」

 開け放たれた扉の向こう、廊下からエンヴィーが現れた。
 まさかの男の登場に、ハーツが「〜〜〜っ!?」と声にならない叫びを上げて慌ててミラアズの背中に隠れた。その顔は耳まで真っ赤になっており、ミラアズの鏡のような髪を鏡替りに身嗜みを整え始めたのだ。

(なんで、なんで今ここにエンヴィーが来ちゃうの?! 我が王に仕事押し付けられてここの所顔も髪もケアがイマイチだったのに! うわーんどうしようエンヴィーに嫌い(ラブレス)って言われたらどうしよーーーっ!?)

 涙目でハーツは必死に身嗜みを整える。基本的にギャルっぽく、誰相手でも特に接し方を変えないハーツではあるが、エンヴィーだけは例外だった。彼女は、エンヴィーに恋しているのである。