「………ところでさ、アミレス。お土産は渡さなくていいのか?」
「あっ! そうだそうだよ、お土産! 皆に買ってきたんだ〜っ」

 カイルはこれまでの流れをずっと傍観していたのだが、彼もここに来てついに言葉を発した。
 ──何でお前が取り仕切るんだよ。と言いたげな留守番組の刺すような視線をいくつも感じ、カイルは(マジで何で俺こんなに殺意向けられてんの? 俺が何かした??)と露骨に困惑している。
 したんだよな、これが。しかしカイルはどちらかと言えば被害者なのだ。

「はい、これがまずナトラの分」
「これは……干からびた果物が瓶に詰められとるの」
「ドライフルーツね。貿易が盛んな港町らしく、この国じゃ食べられないような果物もあるから、ナトラが喜ぶかなって」
「……我、決して単純な訳ではないぞ? ないのじゃが…………これは嬉しいのじゃ。我を置いてどこかをほっつき歩いておった事も、小指の爪程なら許してやるわい」
(それ、ほとんど許さないって事じゃないの)

 ハハハ……と乾いた笑いの裏で、アミレスは思わず冷静に突っ込んだ。気を取り直して、続いてはシュヴァルツに包みを渡す。

「シュヴァルツにはこれかな」
「えー! 可愛いー! おねぇちゃん、ぼくが新しいリボンが欲しいの覚えててくれたの?」
「うん。勿論覚えてたよ」

 包みの中を見て笑顔を輝かせたシュヴァルツ。期待に満ちた瞳と共にパッと顔を上げると、アミレスは笑顔を作って返事した。

(だって突然、『ぼくそろそろ私服のリボンを新調しようと思うんだよねぇ。青とかぁ、レースとかも似合うかなっ?』なんて聞かれたら誰だって覚えてるわよ。インパクトのあまり)

 シュヴァルツの持つ包みから取り出された、青色の生地に黒いレースのあしらわれた大きなリボン。
 この悪魔は人間(シュヴァルツ)のロールプレイを非常に楽しんでいて、シュヴァルツの時にしか出来ないようなぶりっ子や、フリフリの服やリボンにレースなども楽しんでいた。
 なので、シュヴァルツは私服の胸元にある大きな黒いリボンをそろそろ新調しようと考え、どうせなら青色のものにしたいなと以前零していた。

 悪魔的には、今度部下の蜘蛛人(アラクネ)共になんかいい感じのやつを作らせるしとりあえず先にコイツの意見を聞いておくか。ぐらいのつもりで言っていたのだが、その質問をアミレスが覚えていて、かつ、お土産を買う時にたまたまシュヴァルツのイメージに合致するリボンを見つけたものだから。
 お土産として、それを購入するに至ったのだ。

「…………マジで嬉しいわ。何だぁ、これ……?」

 ボソリとシュヴァルツが零す。その表情はシュヴァルツらしからぬ、かと言って悪魔らしい訳でもない、そんな喜び溢れるような抑えきれないはにかみであった。
 思いのほか、アミレスが過去の話をわざわざ覚えていて、こうしてプレゼントしてくれた事が嬉しかったようだ。

「えーと、これ……がマクベスタの分かな」
「! ああ。ありがとう、アミレス」

 手渡されたのは綺麗な装飾が施された両手に乗る程の大きさの箱。ようやく自分の番か──。そう、密かに心躍らせるマクベスタは、お土産を受け取ってすぐに「開けてもいいか?」と聞いて、アミレスがいいよと頷いたらすぐに箱を開けた。
 その中にあったのは手のひらサイズの瓶。少しばかり水色がかった液体が並々と入っている。

「そちらは香水になります。それもマクベスタのイメージで作った世界に一つだけの香水よ。私の誕生日に香油をくれた事を思い出したのと、たまたま港町で香水専門店を見つけたからちょっと作ってみたの」
「……オレの、イメージで。お前が?」
「うん。マクベスタっぽい感じにしたよ。(カイルを抑えるの)めっちゃ頑張った!」

 作ってる時本当にカイルが口うるさかったけどね! と内心でひっそり暴露する。アミレスがマクベスタイメージの香水を作ると決めた途端、カイルは水を得た魚のようにはしゃぎ、何故かアミレス以上の熱量でオリジナル香水作りに挑んでいた。
 しかしその熱量のお陰もあって、マクベスタイメージの香水は無事完成したのだ。

「そうか、そうなのか……ありがとうアミレス。これから大事な場面…………いや、普段から使わせて貰おう」
「作った時に私も試しに嗅いでみたけれど、本当にいい匂いだったから。期待してもいいわよ?」
「はは、そこまで言うなら期待しておくよ」

 マクベスタの年相応な微笑みが眩く、カイルの目に映る。

「ヴッッッ」
(ゲームでも見れなかったんだが、マクベスタのこんな笑顔……! 公式が最大手とはこの事を言うのか…………?!)

 何故かこのタイミングでダメージを受けて悶絶するカイルに、ナトラやエンヴィーが不審な目を向ける中。
 最後にと、イリオーデへのお土産をアミレスは取り出した。

「イリオーデにはこちらの短剣《ナイフ》をプレゼントします」
「……っ! ありがたき、幸せにて。王女殿下より賜りましたこの短剣《ナイフ》、子々孫々まで受け継がれる家宝に──」
「重い重い。普通に剣として使ってちょうだい?」

 仰々しく、まるで宝剣でも賜るかのごとく短剣《ナイフ》を受け取ったイリオーデは、宝物のようにその短剣《ナイフ》を抱き締めていた。
 しかしアミレスより使えと命じられたので、一度鞘から抜いて利き手で持ちクルクルと手遊びしては、

(手に馴染むのに、時間はかからなさそうだ。非常に勿体ないが、王女殿下は普通に剣として使えと仰っているのだから……懐剣として常に持ち歩こう。お守り、というやつだな)

 その得物を己が使えそうかどうかを簡単に確かめた。実際に使うつもりはあまり無さそうだが。
 流石は帝国の剣たるランディグランジュ家の騎士。一通りの得物は扱えると自負するぐらいなのだから、短剣《ナイフ》と言えど簡単に扱えてしまう。