「……炭塵爆発。恐らく、これが理由よ」
「炭塵爆発……粉塵爆発って事か。日本でも昔そういう事故があったな」

 ハッとなったように、カイルが顎に手を当てて考え込む。

「って事は、炭鉱内で誰かが故意に火の魔力を使ったって事か? んな事したら大勢が死ぬって分かってて、わざと?」
「多分そうだと思うわ。当時の新聞によると、多くの人が作業をしていた採掘場に続く斜坑の天井が広範囲に渡って崩れる程の何かが起きたらしいから……それによって逃げられず、一酸化炭素が蔓延した炭鉱内に取り残されたんだと思う」
「このファンタジー世界でもそんなことが起きるのかよ…………誰かしら、魔法を使って脱出しようとかしなかったのか?」

 理解出来ない、と言いたげにカイルがため息をつく。
 それに関しては私も少し気になる所がある。この世界の炭鉱作業では、原則光の魔力を持つ人間を数名配置する事が決められている。

 やはりどの世界でも炭鉱作業というものは危険が付き纏うので、いつ体調不良者が出ても対応出来るよう、治癒が可能な人間がいる筈だ。
 それなのに、どうしてあんなにも死者が出てしまったのか。
 ランメル鉱山は公爵領の領主の城からもそう遠くなく、轟音を聞いて嫌な予感がしたアルブロイト公爵がすぐに騎士団を派遣して、救助活動を始めたらしい。

 轟音と共に事故が起きてから、二時間もしないうちに崩れた天井の除去も終わり救助に移れたそうなのだが……それにしては、あまりにも死者が多すぎる。
 ランメル鉱山はフォーロイト帝国内でも大きな部類の鉱山だ。それ故に、光の魔力を持つ人間も多く配置されていた筈。
 ならば、交代ごうたいで作業員達が死なないように治癒し続ければもっと多くの人が助かった筈なのに。どうしてそうしなかったの?

「魔法を使っての脱出に関しては出来なかったというのが正しいと思うわ。鉱山内は濃く強く魔力が溜まっているから、下手に大規模な魔法を使うと周りの魔力も巻き込んで肥大化するの。だから、基本的に鉱山内では魔法を使ってはならない事になっているのよ。一部の魔力を除いてね」

 そう。鉱山内では全ての魔法が通常よりも肥大化する為、原則として魔法の使用が禁じられている──光の魔力を除いて。

 光の魔力に限っては、寧ろその肥大化の恩恵を受けて魔法の効果が増す。だからこそ光の魔力を持つ者が配置されるのだが……何故か、例の鉱山事故では作業員ほぼ全員が犠牲となった。
 アルブロイト公爵家騎士団や帝都から派遣された救助隊の迅速な救助活動もむなしく、数百人近い犠牲者が出たのだ。

「あー、空間魔法とかでもない限り脱出とか出来ねぇのか」
「ええそうよ。だからこそ、万が一の時の為に光の魔力を持つ人が鉱山内での作業中にはいる筈なんだけど……」
「それにしては被害者が多い、って事か? 爆発に巻き込まれて先に死んだとかじゃねぇの?」
「それは無い……と思う。爆発が起きたのは斜坑らしいし、そんな通り道に貴重な光の魔力所持者がいるとは思えない。いるとしたら採掘場だろうし」
「じゃあなんで光の魔力所持者は仕事をしなかったんだぁ……?」
「それが謎なのよねぇ……」

 ピタリと立ち止まり、二人して腕を組み首を傾げる。
 鉱山内で事故が起きて、何人もの光の魔力所持者がいてあれ程の死者が出た事が本当に謎なのだ。何人もいて、しかも鉱山内なんだよ? どう考えても、交代ごうたいで治癒魔法を使っていれば沢山の人が助かっている筈なのに。

「職務怠慢は駄目だろ〜。全員不在とか有り得ねぇし誰かしらはいただろうに……なんで誰一人として仕事しなかったんだ?」

 腰に手を当てて、カイルは深く項垂れた。
 本当に、職務怠慢は良くないわ。助かる命も助からなくなってしまったのだか……ら……。

「ぁあああああ!! そうか、そういう事か?!」
「うおっ、どうした急に」

 強烈な気づきを得て、勢いのままに叫び声が漏れ出た。
 うっかり共通語で叫んでしまったからか、周りの人達が何事かとこちらを見てくる。恥ずかしい気持ちで「すみませんお気になさらず……」と周りに謝ってそそくさと路地裏に入る。
 そこで私は、記憶を総動員して当時見た新聞の内容を思い出し、カイルに伝えた。

「これ……恐らく鉱山にいた光の魔力所持者達は事前に殺されてたのよ」
「えっ?」

 カイルがギョッとする。

「確か鉱山事故の二日後とかにアルブロイト公爵領とベルゴート子爵領の境目で身元不明の死体が十一人発見されたの。どれも既に死んでからそこそこ時間が経ってて……顔が完全に潰されてたから身元が分からなくて、同時期に鉱山事故も起きた影響で、本当に身元の特定が不可能って言われてたわ」
「あー、成程な。鉱山事故で確実に人を殺す為に前もって光の魔力所持者を殺しておいたって事か? とんでもなく頭が回る連中じゃねぇか、海賊共……!」

 どうしてこんなにも点と点とが繋がってしまうのか。日本語で話し、奥歯を噛み締めながら冷や汗を浮かべる。