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 昼間はずっと自主練をしていた、と仰る姫様は謎の荷物と共に夕暮れにお戻りになった。
 何処で練習をしていらっしゃったのですか。と伺いたかったのですが、今日はもう疲れたから早めに夕食をとって眠るわ。と姫様が仰ったので私は大人しくその準備にとりかかりました。
 そして姫様のお部屋に夕食をお持ちした際に、重々しい空気を纏う姫様に頼み事をされた。

「ハイラにお願いしたい事があるんだけど……後でいいから、帝都や帝都近郊の町村にある教会や孤児院について調べておいて欲しいの」
「……畏まりました」

 姫様は以前より突飛な事を成される御方ですが、今回もまた、なんの脈絡も無い変わった頼み事でした。
 しかし私は姫様の専属侍女にして、姫様の一番の忠臣。例え姫様にどのような命令や頼み事をされようとも、それを疑う余地など最初からありません。
 なので私は粛々とその命を果たします。姫様が食事を終え、姫様が湯浴みをした後、私は姫様に「お休みなさいませ」と一礼し、姫様より頼まれました調べ物をしに王城へと参りました。
 向かうは各領地や各町等の情報を全て管理する情報部。そこである程度、教会や孤児院の情報を得る事が叶うでしょう。
 しかし私は優秀な姫様の侍女です。ただ情報を得るだけならば誰にだって出来ますが、私はそれで満足致しません。
 姫様がお求めになられているであろう情報をあらゆる観点より予測、推測し、前もってそれらの情報を集め纏めておく……それでこそようやく及第点と言った所でしょう。

「カラス、仕事ですよ」

 人気の無い王城の一角にて、私は誰に話しかける訳でもなく呟いた。
 私の言葉に応えるように、全身黒ずくめの者が数名、音も無く現れる。そしてその者達は私を見上げ、口を揃える。

「お呼びでしょうか」

 私の周りにて膝をつく彼等に、私は命令を下す。

「……近頃帝都で噂になっている少年少女の誘拐事件と人身売買……それらについて洗い出しなさい。今晩中にです」
「はっ!」

 命令を下すと同時に、彼等はまた音も無く姿を消しました。
 ──カラスと言うのは、実家の諜報組織です。当主のあの男があまりにも彼等を有効活用出来ておらず、正直に言って宝の持ち腐れでしたので、あの男に代わり私が彼等を有効活用しているのです。
 彼等もどうやらこれには納得しているようですし。
 カラスに市井での情報収集を任せて、私は当初の目的通り情報部に向かいます。
 そして資料をいくらか見聞していると、予期せぬ人に話しかけられました。

「おや、ハイラさん。こんな時間に情報部へどうなされましたか?」
「これは……ご挨拶申し上げます、ケイリオル卿。少々私用で調べ物に」
「なるほど、調べ物ですか」

 透き通る金髪と顔の布を揺らして、卿は小さくお辞儀をした。それに私は侍女制服のスカートを少し摘み、同じように礼をしました。

「差し支え無ければどのようなものを調べているのかお伺いしても?」

 私が知る事もあるかもしれませんので、とケイリオル卿は付け加えた。
 帝国一の情報通とも呼ばれる卿に聞くのは確かに良いかもしれませんね。私に求められているのは正しい情報であり、私自身が調べ上げたと言った実績などではないですし。
 そう言う訳ですので、ここは一つ、卿の言葉に甘えさせていただきましょう。

「……ケイリオル卿もご存知であろう、近頃帝都を騒がす子供が主な被害の人身売買の件です」
「あぁ、あれですか。その件に関する資料でしたらこちらに──」

 流石はケイリオル卿です。話を聞いてすぐにその資料を探し出してくださりました。
 私はその資料に一通り目を通し、そして姫様のお考えの一端を理解する事となった……。
 ──姫様は、いずれその奴隷商から奴隷にされそうな子供達を救い出すおつもりであらせられる。そして、帰る家の無い子供の為に、教会や孤児院を探しておられるのだと。
 嗚呼っ……姫様は何と聡明で慈愛に満ちた御方なのでしょうか……っ! どうせ皇宮の侍女の誰かがその噂をしていたのでしょう、それを偶然にもお聞きになった姫様が幼き子供達の為に御心を砕くだなんて……流石です、姫様‼︎
 そんな姫様の慈悲が姫様の望むままに子供達の元へと届くよう、私も動きましょう。
 カラスもしばらくすれば報告に戻って来るでしょうし、早ければ明日にでも……ああでも、先に姫様に調べ上げた情報をお渡しする事が先です。
 命じられた事は、きちんと果たさねばなりませんから…………。