「…………」

 しかし精霊さんからのめぼしい反応は無い。
 駄目だったのかなと心が萎えてゆくが、それも気にせず次の案を模索しようとしたその時。
 光から、僅かだが声が聞こえてきた。

「シルフ、シルフ……ボクの……名前……」

 精霊さんの光に耳を近づけて、ようやくそれを聞き取った。どうやら『シルフ』という仮称を何度も繰り返し呟いているらしい。
 そして……。

「……ありがとう、すごく嬉しいよ! ボクの事はシルフって呼んでね!」

 どうやら喜んでもらえたらしい。なんとも安直な名付けではあるのだが、こうも喜んでもらえたのなら私としても満足だ。

「えっと、じゃあ……シルフ」
「ふふっ……自分だけの名前で呼ばれるのって、何だか胸が暖かくなるね」

 光から、シルフの嬉しそうな声が聞こえてくる。
 シルフには名前が無いと言っていたけれど、精霊さん全員に名前が無ければ不便だと思うのだけど……その辺はどうなんだろうか。

「ちょっと気になったんだけど、どうしてシルフには名前が無かったの?」

 疑問をそのままシルフへとぶつけると、シルフはカチャリと謎の音を鳴らして口を切る。

「ボクには生まれた時から役職があってね、今までずっと役職で呼ばれていたんだ。だからボク以外の精霊は大体名前を持っているよ……名前を持っていなかったのはボクぐらいかな」
「そうなんだぁ……精霊さんって沢山いるの?」
「うん。この世界にある魔力の属性の数だけ精霊はいるよ」
「そんなに」

 シルフの話に、私は、はへぇーと間抜けな感嘆を漏らした。
 ゲームよりもずっと細かく語られる話に、私はどんどん興味を惹かれていく。ゲームでも確かに魔力や精霊の事は言及されていた……しかし、ほんの少しの補足程度で詳しい事は分からなかった。だからこそ、この話はアンディザの世界をこよなく愛していた私にとっては垂涎ものだった。
 この世界、魔力の属性は数え切れない程存在し、精霊や妖精や魔族などの存在も居る。そんなザ・ファンタジーな作品なのだ。
 ちなみに、ミシェルちゃんの持つ天属性の魔力は、神々の加護(セフィロス)という加護によってのみ得られる特殊な属性で……その為、天の加護属性(ギフト)と称されるのだ。
 シルフの話によるとそもそも魔力の属性は精霊さんが管理しているもので、新しい魔力の属性を持つ精霊さんが人間にその属性をあげると、それが亜種属性として後世に残るのだとか。
 この世界にある四大属性、希少属性、亜種属性の魔力は、それぞれを司る精霊さんが居て、精霊さんが管理しない例外として加護属性(ギフト)という魔力の属性がある。
 実際、ミシェルちゃんの天属性の魔力は神々から与えられたものだ。他にも加護属性(ギフト)は存在しえる……とゲームでは語られていたけれど、それが誰から与えられるものなのかまでは言及されていなかった。

 まぁでも、加護属性(ギフト)なんてもの欲しいとも思わないけどね。だってあれのせいでミシェルちゃんは戦乱に巻き込まれるわ命狙われるわで大変だったんだから。
 そう考えると私が転生した先がアミレスで本当に良かったわ。私に加護属性(ギフト)なんてものは重荷だし、戦争の切り札になるなんてのも御免だもの。
 私はただアミレスとして皇帝達に殺される未来を回避して、幸せになればいいのだから。
 帝国側の話はあまり語られなかったけど……全く無かった訳では無い。ファンブックにて帝国側の裏話みたいな感じで、いくつか帝国で起きていた事件などが年表で記されていた。
 勿論、ゲーム本編もその前日譚にあたる部分も把握しているし、攻略対象達それぞれのルートで語られた過去の出来事なども大まかにだが把握している。
 つまり──私はこれからこの世界で起きる事件を知っている。この手の話では当然の事だが、私にはそれらの事件を阻止する事も出来る。
 何がなんでも攻略対象達を救いたいという気持ちは……正直なところ、私には無い。そもそも彼等を救うのはヒロインであるミシェルちゃんであって、悪役のアミレスでは無い。
 だから、救おうとした所で意味は無いだろう……だが、かと言って見殺しにするのも嫌だ。守れる限り、助けられる限り、私は力を尽くしたい。
 私の最終的な目的はただ一つ。皇帝達にいいように使われて殺される運命を回避して幸せになる事だが、だからって彼等の悲劇を見て見ぬふりなど出来る訳が無いだろう。
 だから私は──可能な限り彼等を守り、救おう。手の届く限り、私は私に出来る事をしよう。
 アミレスも皆もやっぱりハッピーエンドが一番だしね!