ならばどうやってスコーピオンの元に行き、交渉をするのか。それを考えた末に思いついたのが、カイルを共犯者にする作戦だった。
 一人なら言い訳も難しいが、同行者がいるなら……多少無茶な言い訳も通るかもしれない。更にカイルならサベイランスちゃんの力で一度も行った事の無い場所にさえ瞬間転移出来てしまう。

 そして極めつけに、カイルならある程度の事情を把握してくれている。一番、話が早い存在だから。
 これ程の適任者がいるのなら、騙してでも共犯者にするというもの。だからごめんよ、そしてありがとうカイル。

「港町か〜、寿司とかあるかな?」
「ある訳ないでしょ。それに、ウチの国は漁業よりも貿易業の方が強いんですー」
「シャンパー商会がいるから?」
「えぇそうよ」
「まぁそうだよなー、シャンパー商会つえーもんなー」
「シャンパー商会はつえーのよ」

 この世界の人間として生きて初めて実感したが、本当に、西側諸国においてシャンパー商会という存在は恐ろしく強大なのだ。
 シャンパー商会に睨まれたら生きていけないなんて言われる程。ちなみに、スコーピオン社はそんなシャンパー商会と仲良く帝国で商売をやっている稀有な商会である。

 シャンパージュ伯爵家が賭博そのものにあまり食指が動かず、賭博事業に参入しない為か、スコーピオン社は賭博事業で大成功を収めているらしい。
 シャンパー商会とスコーピオン社がフォーロイト帝国の二大商会と言っても過言ではない。

「日程はまだ決めてないけど……出来る限り早めがいいわ。貴方の準備が済み次第出発するつもりだったから」

 だから、諸々の準備が出来たら教えてね。と付け加えると、カイルはいつもの軽薄な笑顔を浮かべて、

「良し、じゃあ明日の朝行くか。俺も今から帰って準備するし」

 サラッと凄まじい言葉を吐いた。
 え? なんて、明日??

「善は急げって言うしな。近々、お前が悪役《ヴィラン》にわざわざ力を借りたがる程の何かが起きんだろ? なら急ぐべきっしょ」

 突然核心を突かれ、私は息を飲む。

「俺はお前と違ってそこまで記憶力もよくないし、ゲームの事もあんまり覚えてねぇ。だから、お前が確固たる意志を持って動く時は無条件に従おうって決めてたんだ」

 カイルはやけに眩しく歯を見せて笑って、

「だって俺等、目指せハッピーエンド同盟だろ?」

 親指で自分を指さした。……まったく、この男は。
 本当に心強い味方が出来たものだ。性格はひとまず置いておいて、本当にこのチートオブチートは仲間だと頼もしすぎる。
 カイルが仲間で良かった。心からそう思う。

「そうね。これからはお望み通り散々こき使ってやるから覚悟してなさい?」
「いや、別にこき使われる事を望んでる訳じゃねーからな?」
「よーしっ、凄く頼りになる駒《なかま》が出来たわ!」
「なんだろうなぁ! 凄く嫌な文字とルビが見えるなぁ!!」

 そうやってふざけつつ、私達は港町に行って何をするかの簡単な話し合いをも済ませた。その後カイルが宣言通り一旦帰宅。翌朝に東宮の庭集合という事でそれぞれ準備に移った。

 多分沢山お金を使う事になるだろうから、へそくりをいっぱい布袋に入れる。その他色々と必要そうなものをある程度肩提げ鞄に入れて、準備は完了した。

 必要なものが出てきたら向こうで買えばいいのだし。と準備を終えた私は夕食を食べに食堂に向かった。その頃にはイリオーデも用事から帰って来ていて、いつも通り皆で一緒に食事をとり、私は明日の事を考えて早めに眠りについた。
 どうか事が上手く運びますように、と願いながら。