三月二十二日。ついに皇太子フリードル・ヘル・フォーロイトの十五歳の誕生パーティーが幕を開ける。

 このパーティーはフリードルの誕生日前日、誕生日当日、誕生日翌日の三日間にかけて行われる。
 一日目は大勢の令嬢達が主に招かれる事実上の舞踏会。世間では史上最大のお見合い会場だなんて呼ばれているらしい。
 二日目は様々な貴賓を中心とした王侯貴族も招かれる、この誕生パーティーの本番のようなもの。
 三日目はとにかく皆で楽しむ事や交流を深める事を目的としたものらしく……何やら様々な立場の人が招かれているらしい。

 何故このように日によって参加層が異なるのか。それは勿論帝国貴族が忙しいからである。皇太子の誕生パーティーなんて一大イベント、帝国貴族がサボタージュする訳にはいかない。
 しかし大抵の貴族は忙しい。期間中ずっと当主が顔を出し続けるのは些か難しい──……そんな声にお答えして、この日だけでも顔を出してくれたらいいですよ〜。と、参加層を分ける事にしたらしい。

 フリードルはこの三日間全てに参加しなければならないらしい。主役なんだから当然だ。
 しかし、主役でもなんでもない私は二日間だけでいいとケイリオルさんから言われた。それでも、二日間もフリードルのパーティーに顔出さなきゃいけないとか中々に苦痛だけどね。

 ケイリオルさんの助言から、私は一日目と二日目に参加する事にした。
 一日目であればメイシアがシャンパージュ伯爵夫妻と共に参加する予定らしいし、同年代の令嬢達と関わる機会になるからとか。
 二日目は…………皇族として、そしてフリードルの妹として当日だけは外せないらしい。ケイリオルさん曰く、『何か良い出会いもあるかもしれませんよ?』との事。

 出会いを求めるなら一日目だけで十分だと思う。と、密かに思っていたのはここだけの秘密だ。
 ちなみに。こんな私だが、一応妹として奴の誕生日プレゼントを用意してやったりもしている。
 一応毎年ね、用意してたんだよ? 捨てられたら勿体無いからって、色んな令嬢達からの貢ぎ物(プレゼント)の山の中に匿名でひっそり忍ばせて来たんだから。

 ついに今年は面と向かって渡す事になり、気が滅入るばかりだ。目の前で捨てられたりしたら流石の私もヘコむかなぁ……何よりアミレスが泣いちゃいそう。
 自分から意識を失ったあの日以来フリードルとは会ってないから、よりにもよってこんな事で会う事が恐怖で仕方ない。流石に大勢の前で罵られたりはしないだろうけど、今日明日は私も大人しくしないと。

 だってこれが私の──……アミレスの社交界デビューなんだから。

「まさか、これを使える日がこんなにも早く来るなんてね」

 身に纏うはシルフ達が誕生日プレゼントにと贈ってくれた、星空のごとき美しいドレス。ひらひらと靡くレースはまるで銀河のよう。
 今日は全身をシルフ達からの贈り物で固めている。髪飾りも耳飾りも、ネックレスも指輪も。この状況を予見してたのかってぐらい、シルフ達がこれまで贈ってくれたプレゼントは統一性があった。

 全て一纏めに贈られたと言われたら信じてしまいそうな、そんな完璧なセットアップとなっている。
 侍女さん達によって星空のドレスに合わせて化粧を施され、どこか幻想的な雰囲気を醸し出している。そして何より美しい。なんなんだ、この美少女は。

 これが私……?
 鏡を見ながらふざけている間にも、やり手侍女さん達によって私はどんどんメイクアップされてゆく。
 髪は元の天然ゆるふわウェーブを生かし、多少巻いたりはしたけれどほとんど敢えてそのままに。そこにシルフ達からの贈り物の髪飾りを添えた。

 手に出来たマメを隠す為にと、ドレスに合うサテングローブを急遽用意してそれを着ける。
 最後に、二年前にシルフ達から貰ったヒールを履いて完了だ。シルフ達が一体どれだけ先を見越していたのかは分からないが……当時は少し大きいなと思っていたこのヒールも、今やピッタリなのである。
 精霊さん怖……すご……と私は密かに恐れおののいていた。

「たいへんお美しいです、王女殿下!」
「これでは王女殿下が本日の主役間違い無し! ですよ!!」
「王女殿下は素材が全て良いので、化粧が本当に楽しかったです〜」

 やり切った顔の侍女さん達が一気に褒め言葉を口にする。
私が主役になったら駄目なんだけどね。このパーティーの主役はフリードルなんだから。
 だがそうだろう、アミレスはとっても素材がいいのよ。だって顔だけはいいフォーロイトの血筋だもの。
 侍女さん達の賞賛の言葉にそうでしょうそうでしょう。と頷き、私は部屋を出た。するとそこにはシルフと師匠とナトラとシュヴァルツが待っていて。

「思わず目を奪われる美しさじゃ……流石はアミレスよな」
「わぁぁああああああっ、おねぇちゃんすっごく綺麗ー!」

 ナトラが何故か誇らしげに腕を組み、シュヴァルツは瞳を輝かせて興奮気味に動き回っていた。
 どうやらちゃんと好評らしい。

「───綺麗、だ」
「……っスねぇ……あまりの衝撃に、マジで頭空っぽになったんだが」

 精霊さんズは開いた口が塞がらぬまま、呆然とこちらを見つめていた。
 ここにいるのはパーティー不参加組のようだ。シルフと師匠は精霊だから不参加。シュヴァルツとナトラは周りへの説明が大変なので不参加。
 逆に、メイシアやマクベスタは伯爵令嬢や隣国の王子として別途招待されているので、パーティーに参加すべく一時的に東宮を離れている。
 不運にも私のパートナーに指名されたイリオーデは、現在絶賛準備中のようだ。