まぁただのおまじないらしいし……私もそう簡単に死ぬつもりは無いからね。お守りぐらいに思っておこう、うん。
 そうやってとりあえず話を進めると、メイシアが「両親からプレゼントを預かってるので、そちらもお渡ししますね」と言って、まず自分のプレゼントから渡してくれた。
 渡されたのは可愛らしい袋。持った感じでは軽く、中身はぬいぐるみなのでは? と予想しつつ中身を取り出してみると──、

「メイシアやんけ……」

 まさかまさかのメイシアのぬいぐるみが出てきた。そりゃあ、思わずエセ関西弁が出てしまうぐらい驚くのも無理はないと自己弁護する。

 デフォルメ化されているがメイシアの特徴をしっかり掴んでいてとても愛らしいぬいぐるみだ。一体どういう技術なのか全く分からないが、メイシアの艶のあるストレートヘアーもぬいぐるみながらきちんと再現されていて、顔はメイシアらしさを出しつつもちゃんとデフォルメチックなぬいぐるみに寄せられていて当然のように可愛い。ぬいぐるみという規格にメイシアというスーパー美少女の要素をしっかりと落とし込んでいる。

 まさに神の所業。こんな技術がこの世界にあるなんて……ぬいぐるみといっても基本はクマとかウサギだろうに。
 とりあえずぎゅっと優しく抱きしめながら「これは?」とメイシアに尋ねると、彼女は頬を赤く染めてはにかんだ。

「以前アミレス様が『メイシアは本当に可愛くて癒しになるから、ぬいぐるみにでもしてずっと傍に置いておきたいわ』と仰って下さったので……わたしのぬいぐるみがアミレス様の癒しになるなら、とシャンパー商会お抱えの職人達と一生懸命作り上げました」

 シャンパー商会マジでやばいな。

「それで、あの。もし良かったらアミレス様のぬいぐるみも作らせていただけませんか? わたしも……その、アミレス様のぬいぐるみが欲しくて。やっぱり不敬ですよね、皇族の方のぬいぐるみだなんて……」

 メイシアがしゅんとなってしまった。
 いや全然いいのよ、そんな事気にしなくて。だってその皇族のアミレスやフリードルもアクリルキーホルダーとか缶バッジとかタペストリーとかになってたもの、前世で。
 とは言えないので、私はこの世界風にそれを変えて伝える事にした。

「いいわよ、作っても。兄様の姿絵とかは昔から出回ってるみたいだし、創作による不敬はそうそう無いと思うから」
「っ、本当ですか! 精一杯、我が商会の威信をかけて史上最高のぬいぐるみを作りあげてみせますっ!!」
「完成したら私にも見せて欲しいわ。自分のぬいぐるみとか、現実感無くてちょっと気になるもの」
「はい、喜んで!」

 メイシアは満面の笑みで嬉しそうに息巻いている。
 しかし途中でハッとなり、「両親のプレゼントの方もお渡ししますね」と慌ててもう一つ、プレゼントを差し出して来た。
 それは一枚の文書のようで。なんだなんだと皆がすぐ後ろにまで近づいてきては、背中越しにこれを覗き込む。丸められていたそれを開いて、私達は全員ギョッとした。

「──鉱山の、所有権……?!」
「はい。これまでシャンパージュ伯爵家が所有していた鉱山の所有権を、王女殿下に譲渡した事の証明書です。鉱山の管理の方は引き続き伯爵家の方で行いますので、アミレス様には鉱山で発生した利益を全て受け取っていただく事になります」
「ちょっ、え?!」

 シャンパージュ伯爵家の所有する鉱山と言えばフォーロイト帝国内で二番目に大きな鉱山、シャングリラよね!? 無限に富が溢れ出る黄金郷とか呼ばれてるあの!!
 それの所有権が私に譲渡されて、利益を全部私が貰う?! いやいやいやおかしいおかしい!

「む、無理よそんなの! 流石にそれはお断りさせ……」
「もう譲渡した後なので、多分無理ですね」
「事後承諾!!」

 シャンパージュ伯爵家マジでやばすぎるでしょ。そんな国の財政傾けられる程の決定を何あっさり裏でやってくれてるのよ。
 しかも事後承諾と来た。どうやらこれは断れないらしい。とんでもないものが私の手に渡ってしまったものだ。