「精霊さんの名前は?」

 幸せになると決心した私は、ひとまず引き続き城の地図制作に精を出していた。何せゲームではフォーロイト帝国側の事なんてたまにしか描写されず、帝国側の話があっても背景は大体同じで……この城や宮殿の構造なんてもの、私の前世の記憶には全く無いからだ。
 また今度、いざと言う時用の秘密の脱出経路でも探すか。皇帝と兄から逃げられるとは思わないけれど、もし勅命を受けるとなれば……その時は全力で逃げよう。

 話がかなり脱線してしまった。
 精霊さんは地図作りに興味があるのか、ふよふよと付いてきては、度々会話を振ってくれたりもした。
 私はあの後、「名前、思い出したよ」と言って名乗ったが……そういえば精霊さんの名前は聞いてないなと思い出したのだ。
 いつまでも精霊さんと呼ぶ訳にもいかないし、名前ぐらい教えてくれてもいいんじゃないかなぁと。

「名前……ボクには名前なんて無いよ」

 精霊さんの声が少し曇る。なんだか少し寂しそうな声で、それを聞いた私はつい、分不相応な事を言ってしまった。

「じゃあ、私が名前をつけてもいいかな」
「君が?」
「だめ?」

 ピタリと足を止めて、傍を飛んでいた光を見上げる。

「…………いいよ」

 精霊さんは間を置いてから答えた。それに喜び、私は待ってましたと言わんばかりに名前を考える。
 なんだか可愛い感じの声をしているみたいだから、やっぱり愛嬌のある名前がいいな。
 精霊と言えばサラマンダーやウンディーネやシルフィードやノームが有名所よね、これをもじるなんてどうかな…………ウンディーネ……シルフィード──そういえば、シルフィードが別名で元がシルフとかだった気がするわ。
 シルフ、うん、いいじゃない。これにしましょう。

「──シルフ、なんてどうかな?」

 光を見上げ、私はドキドキワクワクしながら提案した。