幸いにも部屋には俺が先程まで使っていたまだまだ熱いティーポットがあるので、必要なのは茶葉とカップと茶菓子のみ。部屋の一角にある棚からそれらを取り出し、やがて紅茶を注ぐ。
 そして、「茶菓子はこれしか無いが大丈夫か?」と聞きつつ紅茶と茶菓子を振舞った。イリオーデも「……問題無い」と短く返答して紅茶を一口含む。

「この味……」
「懐かしいだろう。昔よく乳母が入れてくれたものに少しでも似るよう、結構練習したんだ」
「六十五点」
「……辛口だな。まぁ確かに、まだまだ乳母の味には届かないが」

 まさかこんな風にイリオーデと話せる日が来ようとは。これまで結構苦労したからか、天がご褒美をくれたのかもしれない。
 ある程度紅茶を味わってから一度カップを置き、俺はシャンパージュ伯爵のお勧め通りにイリオーデと話し合う事にした。

「それじゃあ、俺と話し合ってくれるか、イル?」
「…………あぁ。勿論だとも、アランバルト……兄さん」

 かつて、騎士らしくないからと呼ぶのをやめてしまったイリオーデの愛称。十数年ぶりにそれを呼んで……イリオーデから兄さんだなんて呼ばれ方をして、少し気恥ずかしくなる。
 ……──ああ、おかえり。イリオーデ。お前の帰りをずっと待ってたんだ。本当に、生きててくれて、ありがとう。