「久しぶりだな、アランバルト」

 初恋の人に再会出来た事に浮かれていた俺を、雷が貫いたようであった。
 生意気にも兄である俺よりずっと背も高く逞しい体になった仏頂面な男が、シャンパージュ伯爵の隣に立っていた。
 驚きと困惑のあまり、俺はパクパクと口を動かすだけであった。

「何だその間抜けな顔は……情けない」
「っ、いつからそんなに、毒舌になったんだよ」
「共に暮らしていた弟分の癖が移ったのだろう」
「……今まで、どこにいたんだ」
「貧民街だが」
「そ、っか…そりゃあ、見つからなかった訳だ」

 帝都中を隅々まで捜す前に、人手が足りないランディグランジュ家は泣く泣くイリオーデの捜索を打ち切らざるを得なかった。そこでまだ捜索出来ていなかった場所が、偶然にも貧民街を始めとした西部地区だったのだ。
 捜索を打ち切らずに西部地区を捜していれば、もっと早く見つけられたかもしれないのか。目の前の事にいっぱいいっぱいだった俺には無理だったが。
 というかイリオーデ、何だその服。騎士っぽいが……騎士団の服では無いな。もしやシャンパージュ伯爵家の騎士とかなのか、お前!? 凄いなお前!

「兄弟の感動の再会に水を差すようで申し訳無いが、実は今日はランディグランジュ侯爵に相談……いや、提案があってね」
「提案?」

 シャンパージュ伯爵から俺に提案するなんて、何事だろうか。はっ、もしや農作物の取引停止とかか?! 
 いやそれだけは駄目だ、シャンパー商会と取引出来なくなったとなれば、その噂だけで他商会も取引に応じなくなってしまう。
 最悪の事態だけは避けねば!!

「私を筆頭に、ララルス侯爵が王女殿下の派閥に入っている事は知っているだろう?」
「え? あぁ……はい。最近良く聞きますし、その話は」

 農作物の話じゃないのか? と、ひとまず安心して良さそうな流れに思わず肩を撫で下ろす。

「そこで、君にも王女殿下の派閥に入って欲しいんだ。王女殿下を支える為に、磐石の布陣を敷く必要がある。そこの一角を、ランディグランジュ侯爵……君が担って欲しい」

 随分と意外な提案だ。しかしシャンパージュ伯爵の瞳は真剣そのもの。イリオーデとて、意思の籠った強い表情をしている。
 しかし、王女殿下の派閥か。うちは元帝国の剣として一応、中立の立場にあったからな……というか有力家門は大体特定の派閥に入っていないんだよな、今は。
 何せ皇族の継承権争いが無いからな。だから俺もそこのところはなあなあで放置して来たんだが、それに入る事で、イリオーデが王女殿下の元に舞い戻るきっかけになるのなら…まぁ、それも有りだな。

「分かりました。王女殿下を支持すると公言すれば良いんですね?」

 二つ返事で提案を飲むと、シャンパージュ伯爵がたまげたように目を丸くして。