『……──俺が、両親を殺した事にする。父は最後まで母と共に在ろうとした高潔な騎士だった。それを、俺が爵位欲しさに殺害した。そう、世間には喧伝しよう』
『そんな……?!』
『いくら何でも、坊ちゃんがそこまでする必要は!!』

 協力者達が次々に心配の言葉をかけてくる。だが俺はそれらを全てて無視して我を通した。
 ここまで来たら、被れる限りの泥は俺が被ろう。
 少しでも、明るい未来が待つあいつに泥が飛ぶ事が無いように。暗い未来しか待ち受けない俺が全ての悪を演じよう。

 ただ……俺が最低最悪の事件を起こした事であいつの出世街道に傷がつきそうなのが、一番の懸念点だ。だがまぁ、きっと、あいつなら兄の不名誉による障害はその才能で黙らせる事が出来るだろう。
 お前には苦労させる事になるだろうが、どうか、許して欲しい。これしか方法が無かったんだ。

『そう言えば……イリオーデはどうした? 姿が見えないが……』

 あいつに何と説明しようか。お前の為にやった、なんて言ってもあいつは納得してくれないだろう。世間に伝えるのと同じように、爵位欲しさにやったとでも言えばいいだろうか。

 間違いなくイリオーデには嫌われるだろう。騎士として恥ずべき行いだと言われるだろう。ああ、全くその通りだ。
 だから俺は、もう二度と真の意味で騎士となる事は出来ない。形だけの、名ばかりの騎士になるだろう。

 それでも、お前の未来を守れるのなら。俺の夢も憧憬も全てを託したお前が、騎士となってくれるのなら。俺は喜んで汚名も悪名も被ってやろう。
 最初で最後の俺なりの騎士道が……どうか、お前の信念の一助となれた事を、俺は祈るばかりだよ。

『アランバルト様!』
『どうした、そんなに慌てて……』
『それが、イリオーデ様がどこにもいないのです! 邸中捜しても、敷地内を捜しても、どこにも!!』
『──え?』

 いない? どういう事だ? 何で、どうしてあいつがいなくなったんだ?
 気が動転しそうだ。ただでさえボロボロで、立ってる事がやっとの状況なのに。そんな、よりにもよってイリオーデがいなくなるなんて。

『っ! 捜せ! 敷地内にいないのなら帝都のどこかにはいる筈だ!! 頼むから、イリオーデを……っ、あいつだけは、絶対に見つけ出してくれ!!!!』
『は、はいッ!』

 バタバタバタと侍従達が邸を飛び出し、イリオーデの捜索に向かう。
 その場には俺と乳母だけが取り残されて、俺は膝から崩れ落ちた。
 なんで、どうしてこうなったんだ。俺はただ、イリオーデを守る為に、父を犠牲としたのに。母までもが死に、イリオーデは行方不明と来た。
 俺は、俺に出来る事をやっただけなのに。

『……──おま、えが、いなかったら……おれが、こんなにも、くるしんだ……いみが、なくなる……っだろ……!!』

 その言葉も、俺の気持ちも、イリオーデには届かない。
 夜明けまで一度目の捜索は続いたが、イリオーデの行方はおろか……深夜故か目撃情報も掴めなかった。
 この日。俺は両親を殺め、弟を失い、最低最悪な汚名と分不相応な立場を手に入れてしまったのだ。