『ごめん、なさい。ごめんなさい……父さん……!!』

 無能な息子でごめんなさい。貴方の望む騎士となれなくてごめんなさい。
 尊敬してました。憧れていました。いつかは父さんみたいな騎士になりたいと、何度も何度も夢を描いてました。
 でも。誰よりも騎士というものを理解している貴方が、イリオーデの未来を奪う事が許せなかった。

『ぐ、ぁ……っ』
『うぅ……ぁああああああああああああ!』

 近くに立て掛けてあった父の愛剣。それを震える両手で構え、滝のように涙を流し、雄叫びと共に地に這い蹲る父の背に突き立てた。
 間もなくして、父は動かなくなった。父の剣にはやけに血が付着していて……これはきっと、ドアノブについていたものと同じ血なのだろう。
 潔癖症の父が放置するのだから、この血はきっと……母のものだろう。父だって不器用ながら母を愛していた。でも、俺が無能な所為で。

『っ、ぅぐ……ぁ、俺の、俺の所為で……全部、俺の…………っ』

 その場で蹲り、地面に向けて絶叫に似た嗚咽と大粒の涙を落とした。
 苦しい、苦しい。心も胃もぐちゃぐちゃで、今すぐにでも全て吐き出してしまいたい。

『こう、するしかなかったんだ……こうでもしないと、おれ、は……っ! あいつを、まもって……やれ……っ、ない』

 そんな適当な大義名分で納得出来る程、俺の心とて単純ではなかった。暫く泣いていると、協力者達がわらわらとやって来ては事後処理の方を始めた。
 俺はフラフラとしながらも何とか踏ん張って立ち上がり、母を捜しに行った。やはり母は父によって怪我を負わされたらしく、よくよく目を凝らすと廊下には血痕がいくつも残っていたのだ。