俺はアランバルト・ドロシー・ランディグランジュ。歴史ある家門ランディグランジュ家の長男として生を受けた。

 帝国の剣と名高いランディグランジュ家は、代々帝国騎士団の騎士団長を務めるなどしてフォーロイト帝国の剣に相応しい功績を残してきた。
 それは我が父とて同じであり、当然俺もいずれは父のようになるのだと思っていた。
 だけど。現実は、そう上手くいかなかった。
 俺には一人、弟がいた。いっそ嫉妬すら出来ない程の才能に恵まれた、弟がいたのだ。身内贔屓とかではなく……誰が見ても、イリオーデの才能は格別だった。

 そんな弟と常に比較されるのは無能な俺だった。そりゃあ、ランディグランジュ家に生まれたのだから人並みには剣を扱えた。
 だが、騎士足り得るかと問われれば。答えは間違いなく、否だ。
 俺には才能が無い。ランディグランジュ家の騎士たる資格が、帝国の剣となる才能が、俺には全くと言っていい程に無かったのだ。
 どれだけ努力を重ねても、俺ではイリオーデの足元に及ぶ事すら出来ないと。馬鹿な頭でもすんなり理解してしまう程、イリオーデの剣才は素晴らしいのだ。

 憎らしい程に惚れ惚れしてしまう剣才。だが、それを持つ本人は何の目的も意味も無く剣を握っているようだった。
 その剣才の代償とばかりに、イリオーデは非常に無口で人間らしさの欠片も無い子供だった。何事にもはいかいいえでのみ答え、全て親や周りの言う通りにする、自由意志というものを持たない変わり者だった。
 ただ、かくあるべしと父に定められた道に従属しているだけの、人形のようであった。

 ──何で、そんなにも才能に溢れていて何もしないんだ。
 お前なら何だって出来るだろう、父に全てを定められずとも、自ら道を切り開けるだろう。
 俺に無いものを全て持っている癖に、どうして何一つとして使おうとしないんだ。
 お前の剣は何の為にあるんだ。
 お前の心は、その命は何の為に在るんだ──……。

 騎士になれない俺と違って、お前は騎士になれる。お前こそが帝国の剣を名乗るに相応しい。
 なのにどうして、お前は父の傀儡となっているんだ。どうして、自らの信念を持たないんだ?