「……行くぞ、皇太子の誕生パーティー。背に腹はかえられない」
「わぁーい! 来月が楽しみだね、アンヘル君!」
「スイーツだけだがな、俺の楽しみは」

 あくまでもスイーツの為なのだと繰り返すアンヘル。しかしミカリアはそんなの全く聞いておらず、体を左右に揺らして子供のように喜んでいた。
 振り子のように揺れるミカリアは途中で「あ、そうだ」と言ってピタリと止まり、アンヘルへと無理難題を押し付ける。

「あのね、そろそろ姫君の誕生日なんだけど何を贈ればいいかな? アンヘル君も一緒に考えてよ」
「ア? それぐらい自分で考えろ」

 当然、アンヘルは冷たくバッサリと拒否した。しかしミカリアはこれぐらいではへこたれない。

「だって初めて姫君に贈る贈り物なんだよ、生半可な物は贈れないじゃないか! だから相談にぐらい乗ってよ〜っ!」

 知人でしょう、僕達!! と諦め悪く騒ぎ続けるミカリアへと業を煮やし、アンヘルは「うるせぇ!!!!」と彼の腹部に綺麗なストレートをお見舞いした。

 その後暫く取っ組み合いが続き、最終的にはアンヘルが、非売品の魔導兵器《アーティファクト》を一つミカリアに渡して、「あ〜〜っ、もう!! それでも渡しとけばいいだろ! とにかく今すぐ早急に失せろ!!」と屋敷から追い出した事でこの喧嘩は幕を閉じた。
 ミカリアは手渡された魔導兵器《アーティファクト》に視線を落として、思考する。

(うーん、そんなに危険な効果とかは無さそうだし贈り物にしても大丈夫かな。特別感もあるし、姫君への誕生日プレゼントにはぴったりだ)

 その場で空間魔法を使い、瞬く間に自室へと戻る。その魔導兵器《アーティファクト》を包装しようとした所で、ミカリアはふと思った。

「華が全然足りないな。一番の華は姫君だから、まぁ、多少足りないのは問題無いのだけど……流石にこれは全然足りてない。何かいい感じの花束とメッセージカードでも用意しようかな。花は勿論、姫君の綺麗な瞳と似た色の花々にしようか」

 ふふ、と神々しい微笑をたたえつつ彼はせっせと贈り物の準備を始めた。
 その途中、どうしても花束に加えたい花が北の辺境にしか無いと知って、自らそれを摘みに行くぐらいには気合いを入れて。
 人類最強の聖人は少しづつではあるが──……しっかりと、着実に壊れ始めていた。