「もう、本当に人の話を聞かないね。君は」
(滅茶苦茶聞いてやってる方だが??)
「仕方ないなぁ……この手はあまり使いたくなかったんだけど」

 ここまで耐えられている事が奇跡に等しい怒り。その頬や手には血管が浮かび、彼の手に握られたカトラリーは見るも無残な姿へと成り果てている。
 ミカリアの一挙手一投足が全てアンヘルの神経を逆撫でしているのだ。

「僕ね、ここ一年近くずっと帝都の様子をラフィリアに監視させていたんだ。それで聞いたのだけど……」

 何やってんだこいつ。とアンヘルが内心で毒づいたのは言うまでもない。

「何でも近頃帝都では、新感覚スイーツなるものが若い女性を中心に流行っているそうだよ」
「──詳しく聞かせろ。今すぐ」

 ミカリアの秘技、『好物で釣る』が発動する。この秘技はその名に相応しく絶大な力を持っており、あれ程頑固であったアンヘルでさえも瞬きの間に陥落させる事が出来るのだ。
 アンヘルは首をぐりんと動かして、ミカリアの両肩を掴んで詰め寄る。想像通りの食いつきに、ミカリアは満足気に笑った。
 そして、「えっとね〜」と口を切る。

「サクサクホロホロとした薄いパン? みたいな生地の中に甘いクリームが入っているみたい。名前は確か……シュークリームだったかな。食べやすくて美味しいと人気みたいだよ」
「シュークリーム……!!」

 途端に輝きだすアンヘルの深紅の瞳。それをミカリアはニマニマと見つめ、追い討ちにと更に続ける。

「皇太子の誕生パーティーなんて特別パーティーなら、きっと帝国中の珍しいスイーツが集まる事間違い無しだよ? シュークリーム以外にもまだ見ぬ新たなスイーツだってあるかもしれないなぁ」

 ピクリ、とアンヘルの尖った耳が反応する。

「でも僕はスイーツの善し悪しはあまり分からないし、お土産なんてマナー的にも良くない。だから持って帰って来てあげる事も感想を伝える事も出来ないなぁ」

 ピクピク、とアンヘルの尖った耳が何度も反応する。

「でもアンヘル君は行きたくないんだから、仕方ないか。だからね、僕が頑張ってアンヘル君の分もスイーツを堪能してくるよ!」

 最後のシメとばかりに圧倒的聖人スマイルで言い放つと、アンヘルはとても苦しそうに、その顔をしわくちゃにして思い悩んだ。
 パーティーなんて面倒臭い。面倒臭いのだが……スイーツには目がないアンヘルとしては、珍しいスイーツが集まる事間違い無しな皇太子のパーティーに行かない理由が無い。
 というか行かざるを得ない。暫く「ぐぬぬぬぬ……」と必死に内なる自分と戦い、アンヘルはついに答えを出した。