フォーロイト帝国に納品されるものはたった三割なのだが、フォーロイト帝国からすればそれで十分だったのだ。
 デリアルド家で開発された上質な魔導兵器《アーティファクト》を手に入れられる上、吸血鬼一族《デリアルド》が戦争に関与出来なくなるよう条約を結ばせる事が出来たから。

 寧ろそちらが本命だったとも言えよう。
 デリアルド家は魔導兵器《アーティファクト》制作に必要な素材をフォーロイト帝国から輸入するしかなく、その手段を捨てれば魔導兵器《アーティファクト》制作は不可能となる。それはハミルディーヒ王国側にとっては非常に困る事。
 だからフォーロイト帝国との取引を容認する他なく、その取引の条件として『デリアルド家が両国間の戦争にだけは関与しない事』……なんてものを叩きつけられても首を縦に振るしかなかったのだ。

 吸血鬼なんて戦争向きの種族を戦力として数えられないのはかなりの痛手ではあるが、デリアルド家の魔導兵器《アーティファクト》が使えない事の方がハミルディーヒ王国にとっては重大事項。
 その二つを秤にかけた結果、ハミルディーヒ王国は個の怪物より万の戦力を選んだ。だがやはり、悔しいものは悔しいので、フォーロイト帝国に納品するものより質のいい魔導兵器《アーティファクト》をこっそり自国に納品させているのだが……これは紛れもない機密情報である。

 そんな『デリアルド家を戦争に関与させない』条約の元、この取引は長らくこれといった問題も無く履行されている。……のだが、取引先のフォーロイト帝国から突然手紙が届いたのでアンヘルは苛立ちを露わに眉を顰めていた。

「それがどうやら、パーティーの招待状のようなのです」
「パーティーの招待状……あぁ、もうそんなに時が経ったのか」

 召使より手紙を受け取ると、アンヘルは何処か納得したようにケーキをまた一口。それを咀嚼しながら、汚物を触るかのような摘み方で手紙を出して読み上げる。
 冷たく鋭い視線を左から右へと動かし、「はぁぁぁぁ……」と大きなため息を吐き出す。ガックリと項垂れて、手紙をポイッと投げ捨てる。
 それを慌てて拾いながら、召使はアンヘルへと尋ねる。

「あの、伯爵様……何と返事すればよろしいですか?」
「不参加と言っておけ。俺は皇太子の誕生日など興味無い」
「本当によろしいのでしょうか…?」

 召使が帝国からの招待状を断る事を心配するも、アンヘルは仏頂面でケーキを頬張るばかり。
 彼は吸血鬼だ。吸血鬼と言えば不老不死たる怪物。混血《ハーフ》たる彼とてそれは変わらず、若い青年のような見た目をしているが、もう既に百年以上も生きている。