「皇太子の誕生日は三月の下旬か……オレは丁度、愛し子への教育の予定が入っているな」

 共に、ブラリー卿とセラムプス卿も教育の予定がある。とアウグストは付け加えた。
 愛し子ミシェル・ローゼラへの教育は相変わらず難航している。
 軽度の罰や説教が解禁された事により多少は楽になるかと思われたが──ミシェルが"勉強"と"罰"という行為に対して異様なまでの嫌悪を見せる為、思うようにいかないのが現状である。

 勉強を始めるまではいつも通りのミシェルだったのだが、いざ無理やり勉強を始めさせると。ミシェルは何かに追い詰められたかのような様子で存外真面目に取り組む。
 しかし、何かを間違え大司教がそれを指摘した瞬間。ミシェルは人が変わったように『ごめんなさい、ごめんなさい……もう間違えないから、次からはちゃんとするから……』と顔面蒼白で体を震えさせていた。

 大司教達がこれまでの蛮行に何か罰を与える、と言った時には『ひぃっ! 駄目な子でごめんなさい、本当にごめんなさいごめんなさいごめんなさい……っ!!』と体を縮こまらせて謝り倒す。
 普段の厚顔無恥な態度からは想像も出来ないような、明らかに異常な様子。それの所為もあって、大司教達は思うように教育が出来ていないのである。

 最初こそはミシェルの演技ではと疑う者もいたが……演技にしてはあまりにも迫真である事、そしてその異常が"勉強"と"罰"の時にしか見られない上に、その自覚がミシェル本人に無い事から──……あれは紛れもない彼女の本音なのだと大司教達は結論づけた。
 軽度の勉強や罰ですら、ミシェルを精神的にかなり追い詰める事になるようで。それを理解した大司教達はミカリアから許可をとり、改めてミシェルの勉強スケジュールを組み立て直した。

 愛し子に必要な素養を身に付けさせる為、教育自体を無くす事は出来ないが、ミシェルに負担がかかり過ぎぬよう調整する事は可能であったのだ。
 なので、アウグストとブラリーとセラムプスの教育の予定が三月に割り振られているのである。