「フォーロイト皇家からの手紙が届いたが……どうする?」
「このまま聖人様にお届けした方がいいのかしら。でも、やっぱり検閲はした方がいいわよね?」

 神殿都市にて、大司教のアウグストとメイジスが一通の手紙を見て話し合う。顔を突き合わせ、その手紙をどうしたものかと二人して頭を悩ませていた。
 ただの手紙であれば彼等も迷わず検閲した事だろう。しかしこれはただの手紙ではなく、封蝋で印璽されたフォーロイト皇家直々の手紙。
 流石の大司教達と言えども検閲する事に多少の抵抗があるのだ。

「これはアウグスト卿にメイジス卿。一体何をしているんだい?」
「ジャヌア卿、実はフォーロイト帝国より特殊な手紙が届いたのだ」
「わたくし共と言えど軽率に検閲する訳にいかず、扱いに困っていた所でしたの」

 検閲するか否かと頭を悩ませる二人の元に、同じく大司教のジャヌアがやって来た。
 長らく第二席に座り続けているジャヌアならば、この手紙をどうするべきか分かるやもしれない。そんな淡い期待から、アウグストとメイジスはジャヌアに手紙を見せて判断を仰いだ。

「これは……別に聖人様に見せなくても問題無い手紙だな。どうやら、近々行われる皇太子の誕生パーティーの招待状のようだ」

 ジャヌアは手紙を開封し、中を検めた。そして中身が招待状であり、ミカリアに見せる必要の無い手紙だと二人に説明した。
 それにアウグストとメイジスはホッと一息ついた。

「そうでしたか。ジャヌア卿が来てくれて本当に助かった」
「長く円卓に座られているジャヌア卿が仰るのならば、問題ありませんわね。では、こちらの招待状はどうします?」
「それならば、慣例通り大司教の中から手の空いている者を向かわせよう。そうだな、二人いれば充分か」

 フォーロイト帝国と国教会は付かず離れずの関係を保っている為、こういった特別な催事の際は神殿都市にも一応、招待状などを送るようにしているのだ。
 そうして送られて来た招待状。フォーロイト帝国と良好な関係を維持する必要のある国教会としては断る訳にもいかず、結果、毎回手の空いている大司教数名が国教会を代表して祝辞を述べに行っているのだ。

 ジャヌアは長い事大司教の座についているので、この手の招待状を見るのももう何度目かになる。その為か、(もうこんなにも時が経ったのだな……)と一人で感傷に浸っていた。
 皇太子の誕生パーティーに出席する大司教を数人見繕う必要が出て来た為、ここでアウグスト達は己の来月の予定を思い出す。